特殊メイクの第一人者・江川悦子氏は、近年ではNHK大河ドラマのメイクも担当。二〇二一年の『青天を衝け』では、終盤で主演の吉沢亮をはじめ、主要キャストたちに思い切った「老けメイク」をほどこしている。そこにはどのような工夫があったのか、江川氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が創作秘話を聞いた。
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江川:これはもう、チーフプロデューサーとチーフディレクターの考え方次第だと思います。表現を控え目にするかしないかという問題が出てくるんですよ。本来なら「八十、九十歳までいったら、もっとシワシワにしていいんじゃない?」という気持ちが私としてはあるんですけど、それを制作者が望んでいない場合もありますから。そういう時は、九十だったら七十歳くらいで作るとか、ちょっとずつ控え目に作る傾向はあります。
ただ、『青天を衝け』のラストでは吉沢亮さん、草なぎ剛さん、大島優子さんをしっかり老けさせました。それは、そういうふうにやろうという方向性を出していただいたから。こちらとしては「やってくれ」と言われたら、喜んでやりますという感じでした。
――近年の大河であそこまでやることは珍しいですからね。以前に比べ、老けメイクが遠慮がちになっている印象があります。
江川:あまり老けさせないときは、目まわりだけちょっと皺っぽくしてもらったら、あとは少しシミをつけて、とか。残念ではあるのですが、そういう手加減をしなくちゃいけないことが多々あります。
――『青天』のように思い切って老けさせるときは特にどういう部分を意識しますか?
江川:全体ですね。目の下のたるみから、頬のたるみとか、全て表現します。喉も筋が出てきてペリカンみたいになるとか、そんな表現をしっかりとしました。顔だけでなく手にもしっかりメイクしています。血管が太くなってきたりとか、細かいシミが出てくるなど。
――頭髪はどうされましたか?
江川:自前の毛をただ白くするケースと、毛量の少ないかつらを用意して、地肌をいったん坊主キャップで坊主頭みたいにした上に毛量の少ないかつらを載せることもあります。そうすることで、ちょっと地肌が透けそうな感じがでるんです。
――若い役者さんだと毛量が多いので、少なく見せる工夫が必要になってくるわけですね。
江川:そういうふうにリアルに表現させてもらえるときはやりますし、そこまではげさせなくていいとなると控えます。