「今の内閣の考え方には全くそぐわない言語道断の発言だ」。岸田文雄・首相は同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜・総理秘書官を更迭すると、そう語って胸を反り返らせた。
だが、荒井氏のオフレコ懇談メモによると、「まぁ、秘書官の間ではそんな話をしていた」との発言もあった。複数の秘書官たちが同じ認識を持っていたとすれば、岸田首相の言う「内閣の考え方」は官邸内で共有されていなかったということだ。首相が官僚たちに舐められていた証拠だろう。経産省の局長まで務めたエリート官僚が、オフレコとはいえ、記者相手にこの発言をしたこと自体、官邸の規律が緩み切っているのは間違いない。
この総理は不祥事や失政が露見すると、場当たり的な対応で失敗を取り繕おうとして混乱に拍車をかける悪いクセがある。
総理に就任してもコロナ対策を何もせず、感染第7波が広がると、誤魔化すために「感染症危機管理庁をつくる」と言い出し、安倍晋三・元首相の銃撃事件で旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題に批判が強まると、形ばかりの「被害者救済法」を成立させただけだ。今回の荒井発言でも、慌ててLGBT理解増進法案を国会提出するように自民党に指示した。
LGBT理解増進法案は2年前に超党派の議員で国会提出の動きがあったが、自民党内の反対論が強く見送られた経緯がある。岸田首相自身、総選挙の党首討論会では全党首の中で1人だけ同法案の国会提出に反対した。
「それなのに秘書官発言の尻拭いという自分の保身のために、一夜にして方針を変えた」
法案推進派の自民党議員は呆れている。
政権の看板である「異次元の少子化対策」でも方針転換で混乱させた。岸田首相は自民党執行部に少子化対策の目玉として児童手当の所得制限撤廃を指示した。だが、自民党は民主党政権時代に所得制限が撤廃されると「バラマキ」「愚か者め」などと批判し、政権奪還すると元に戻した張本人だ。岸田政権は昨年10月に「年収1200万円以上」の世帯への児童手当特例給付をやめさせたばかりだ。