2020年3月29日、新型コロナで亡くなった喜劇王・志村けんさん(享年70)。東京・三鷹市の閑静な住宅街にある志村の豪邸を取材すると、死後3年を迎えるいまも取り残されたままであることがわかった。全国で約850万戸といわれる「空き家」が社会問題になって久しいが、志村さんの豪邸もまた近隣住人を悩ませているという。【前後編の後編。前編から読む】
空き巣被害も
様々な事情を抱えて空き家となった志村さんの自宅だが、このまま放置しておくのは問題だ。不動産に詳しい弁護士の三平聡史氏が言う。
「空き家はホームレスが不法侵入して住み着いたり、空き巣に狙われたり、ゴミの不法投棄場所になるなど地域の治安悪化の原因になります。ネズミやゴキブリが大量発生するなど、衛生面で近隣住人が被害を受けるケースもある」
実際、志村さんの自宅は2004年に空き巣被害に遭い、貴金属などが盗まれた。家中の引き出しが開けられ、被害総額は1500万円相当にものぼったという。税金面でも相続者に重い負担がのしかかる。
「空き家になっても固定資産税は発生し続けます。『住宅用地の特例措置』があり、家屋が建っていれば更地に比べて課税額が6分の1に軽減されますが、2015年に施行された『空き家等対策特別措置法』により、家屋の状態によっては税制優遇がなくなる『特定空き家』に認定される可能性がある。こうなると固定資産税で最大6倍、都市計画税で最大3倍の税金が課せられることになります」
特定空き家には次の4つの指定基準がある。
【1】見た目が悪く、周囲の景観を損なう状態
【2】基礎や屋根、外壁などに問題があり、放置しておくと倒壊するなどの危険がある状態
【3】周辺住民の生活の安全を損なう状態
【4】ごみの放置などで不衛生な状態
例えば「周辺住民の生活の安全を損なう状態」には、野良猫のたまり場になって糞尿などの臭気が発生することや、木の枝が道路にはみ出して歩行者の通行を妨げることも含まれる。
このまま放置されると志村さんの自宅が特定空き家に指定される可能性もゼロではない。三平氏が続ける。
「一般論として志村さんのような身寄りの少ないセレブは、高額な遺品が大量にあったりするため、没後に整理が進まず空き家になりやすいんです。突然親族を名乗る者が出てきて、話がこじれるケースもあります。
生前に遺言を用意していればスムーズなのですが、志村さんの場合はあまりにも急でしたからね。今後も遺品整理が進まない場合は、家庭裁判所が介入するケースもある。空き家の状態が続くほど劣化も進みますし、結果的に周辺住民に多大な迷惑をかけてしまうので、早めに対処すべきです」
豪邸の後始末は「だいじょうぶだぁ」とはいかない難題のようだ。
(了。前編から読む)
※週刊ポスト2023年2月24日号