ライフ

回転寿司テロがあぶり出した「リンチを正当化する人の論理」

問題となっている動画(SNSより)

少年は退学を余儀なくされた(SNSより)

「炎上」がそこかしこで勃発する今日、コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 ネットでテレビで新聞で、今日もさまざまなニュースが流れています。私たちは、なぜニュースを見るのか。その理由は人によって、またニュースや日によって違います。

 世の中の動きを知りたい、事件や事故から何がしかの教訓を得たい、人間や社会について考えるきっかけにしたい、ほのぼのした出来事であたたかい気持ちになりたい……。こうしたプラスの方向で活用されたら、ニュースとしてもたぶん本望でしょう。

 いっぽう、マイナスの方向で活用されるケースも多々あります。「悪者」のレッテルを貼られた相手に罵詈雑言をぶつけて日頃のうっぷんを晴らしたい、お手軽に「正義の味方」になった気になって選民意識を浸りたい……。残念な活用法ですが、本人は気持ちよさを味わうのに忙しくて、自分のやっていることの不毛さを自覚していません。

 そんなマイナスのニーズをたっぷり満たしてくれたのが、一連の回転寿司の迷惑動画騒動、通称「回転寿司テロ」です。わかりやすい「愚行」を動画で目の当たりにして感情を刺激されたり、大勢で声をそろえて非難する高揚感を味わえたりするせいか、ニュースをマイナスの方向で活用したい人たちが大量に群がりました。

 遠慮なく「袋叩き」にしてもよさそうな対象が登場すると、まるでお約束のように行われるのが、本人の住所氏名や在籍している学校名、親の勤務先などを「さらす」という行為。その情報が正しいとは限らないのに、脊髄反射でおせっかいな「正義感」にかられた人が、学校などに抗議の迷惑電話をかけたり、情報を無責任に拡散したりします。

 SNSが身近なツールになったことによって、ますますこうした傾向が強まってきました。ただ、さすがに「行為は批判されてもしょうがないけど、行き過ぎた個人攻撃や、まして学校などを非難するのは単なるリンチではないか」という声も上がります。

 そもそも自分が直接被害を受けたわけでもないのに、なぜ遠慮なく叩いていいと思えるのか。学校に抗議の電話をかけたりするのは、回転寿司テロと五十歩百歩の迷惑行為ではないのか。よくないことをやったかもしれないけど、だからといってリンチをしてもいい理由にはならない。そんな当然の疑問を呈する人も少なくありません。

 一時的に頭に血が上っていたとしても、こうした冷静な意見を目にしたら「ああ、たしかにそうだなあ」とすんなり納得するはず……と思ったら大間違い。人間はそんなにシンプルでもお利口でもなく、誰かを叩いて溜飲を下げたい、わかりやすい正義感に酔いしれたいという甘い誘惑は、簡単には振り切れないようです。

 ネットのコメント欄などでは、「それってリンチじゃないの」「リンチはよくないよ」という意見が書き込まれると、大量の「反論」がぶつけられるという図式があちこちで繰り広げられました。ムキになって反論している人の理屈は、大きくまとめると次の3つ。

「あれだけのことをやったんだから、周囲も含めてひどい目に合うのは当然だ」

「周囲もひどい目にあわないと、本人も反省しないし、見せしめにもならない」

「そもそもリンチの何が悪いのか。善良な我々は悪人に何をしてもいいはずだ」

 屁理屈にもなっていない呆れた言い種です。ただ、コメント欄の盛り上がり方を見ると、どうやら「極端なことを言っているヘンな人が何人かいる」という話ではありません。今の日本には、本気で「これはリンチではない」「リンチの何が悪い」と思っている人が、一定数いるようです。

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
「1時間20万円で女性同士のプレイだったはずが…」釈放された小西木菜容疑者(21)が明かす「レーサム」創業者”薬漬け性パーティー”に参加した理由「多額の奨学金を借り将来の漠然とした不安あった」
NEWSポストセブン
「最後のインタビュー」に応じた西内まりや(時事通信)
【独占インタビュー】西内まりや(31)が語った“電撃引退の理由”と“事務所退所の真相”「この仕事をしてきてよかったと、最後に思えました」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
小さい頃から長嶋茂雄さんの大ファンだったという平松政次氏
《追悼・長嶋茂雄さん》巨人キラーと呼ばれた平松政次氏「僕を本当のプロにしてくれたのは、ミスターの容赦ない一発でした」
週刊ポスト
ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
プーチンと面会で話題の安倍昭恵夫人 トー横キッズから「小池百合子」に間違われていた!
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン