テレビ東京の人気番組『Youは何しに日本へ?』に「裏社会の研究をしにきた」と語り、司会のバナナマンや視聴者を驚愕させたイタリア人のマルティーナ・バラデル氏。接触が禁じられているヤクザや杓子定規な警察への取材という壁に当たりながらも、「日本らしさ」で乗り越えようとする姿に、ヤクザ取材の専門家・フリーライターの鈴木智彦氏も脱帽するばかりだ。【全3回の第3回。第1回から読む】
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マルティーナさんはイタリア人で、現在はイギリスのオックスフォード大学で犯罪学を研究している。
イタリアにはかの有名なマフィアがあり、イギリスは治安が悪化し、不良少年たちがギャング化して大きな社会問題になっている。イタリア、イギリス、そして日本を知る彼女に、それぞれの組織犯罪を比較してもらった。
イタリアでは今年1月16日、マフィア「コーザ・ノストラ」のボスであるマッテオ・メッシナ・デナーロ容疑者(60)がシチリア島で逮捕されている。外国メディアの報道によれば反マフィア判事殺害事件などの黒幕で、2002年、イタリア国内での爆弾テロ事件や、マフィア転向者の子供を誘拐、拷問、殺害した容疑で終身刑が確定した大物のボスだ。彼は「自分が殺した犠牲者で墓地を埋め尽くせる」と豪語していたという。1993年に逃亡生活に入ってから30年以上行方知れずで、他人名義で癌の治療に来たところを、100人以上の武装警官に包囲されて御用となっている。
「マフィアにはオメルタといって、沈黙の掟がある。犠牲者はずいぶん減ったけど、それを破れば殺されるという恐怖は残っています。子供も女性も関係なく殺される。なので、みかじめ料を要求されても絶対警察に行かない。それは今のイタリアにもある問題です。今年捕まったボスはずっとシチリア島、マフィアの本場のど真ん中に潜伏していました。何十年間も警察に追われ逃亡していたのに、シチリア島から一歩も出ていなかった。たくさんの人が協力していたからです。
イタリアでは北部と南部では全く慣習や感覚が違います。マフィアが強いのは南部だけど、それは地元だと当人はおろか、家族や親戚すべてを知っていて、秘密を暴露したら一族郎党全員に報復できるからです。場所を移動したら力も失われる。北部はみかじめ料なんてないし、そんな要求をされたら人々はすぐ警察に行きます。マフィアのオメルタは地元の地縁・血縁の中でしか効力を発揮しないんです」
ヤクザはマフィアを引き合いに出し、「我々は犯罪結社ではない。マフィアとは違う」と主張しがちだ。私はこれまで、おそらく100回以上、そうしたヤクザの主張を聞かされている。前述の通り、彼女の将来を決定づけた白浜で会ったヤクザも、なにも知らない外国人女性に両者の違いを力説していた。
マルティーナ氏曰く、アカデミックな視点で両者を比較すれば、それぞれの論理は非常に似ているのだという。
「イタリアには結社罪があり、マフィアの構成員になっただけで罪になります。日本のヤクザは街中に事務所を構え、存在は認められているけど、その他の法律で実質的には人権が制限されている。その法律の違いが、マフィアとヤクザの違いを生み出していると考えています」
彼女の見解に同意する。