2月8日に発売されるやいなや、国内外で反響を呼んでいる『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)。読み進めると、現政権との違いが浮き彫りになってくる。2012年の総選挙で自民党が政権を奪還し、安倍氏は首相に返り咲いた。そこで財務省との対決方針を鮮明にしていく──。【全3回の第2回。第1回から読む】
解散で増税論者を黙らせた
戦いの第1のヤマ場は、2014年秋にやってきた。安倍氏は消費税率10%への引き上げ延期を表明し、解散・総選挙を打った。
その時の心境を安倍氏はこう証言している。
〈デフレをまだ脱却できていないのに、消費税を上げたら一気に景気が冷え込んでしまう。だから何とか増税を回避したかった。しかし、予算編成を担う財務省の力は強力です。彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。財務省は外局に、国会議員の脱税などを強制調査することができる国税庁という組織も持っている。さらに、自民党内にも、野田毅・税制調査会長を中心とした財政再建派が一定程度いました。野田さんは講演で、「断固として予定通り(増税を)やらなければいけない」と言っていました。
増税論者を黙らせるためには、解散に打って出るしかないと思ったわけです。これは奇襲でやらないと、党内の反発を受ける〉(以下、〈 〉内はすべて『安倍晋三回顧録』からの引用)
この年12月の総選挙で自民党は大勝し、財務省の攻勢をしのいだ。
安倍氏は2016年にも、「世界経済のリスク」を理由に消費税率10%への引き上げを再延期し、その年の参院選に勝利した。安倍氏は財務省との攻防を振り返ってこう語っている。
〈財務省と、党の財政再建派がタッグを組んで、「安倍おろし」を仕掛けることを警戒していたから、増税先送りの判断は、必ず選挙とセットだったのです。そうでなければ、倒されていたかもしれません〉