2月8日に発売されるやいなや、国内外で反響を呼んでいる『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)。読み進めていくと、安倍氏は財務省の方針に真っ向から立ち向かっていたことがわかる。そこで浮き彫りになるのは岸田政権との大きな違いだ。岸田文雄・首相の本質とは──。【全3回の第3回。第1回から読む】
天下り指定席が復活
回顧録を通じて見えてくるのは、現在の岸田首相の政治が、安倍氏とは正反対の道を進んでいることだ。
防衛費倍増の財源問題では、岸田首相は宮沢洋一・自民党税調会長をはじめ自民党内の財政再建派の振り付けで「所得税」「法人税」「たばこ税」の増税を決め、異次元の少子化対策でも、中身の議論をする前に消費税増税論が先行した。
安倍氏のように増税を迫る財務省と戦うのではなく、逆に取り込まれている。
「岸田内閣は菅直人内閣とそっくりだ」
そう指摘するのはジャーナリストの長谷川幸洋氏(元東京・中日新聞論説副主幹)だ。
「民主党政権は、財務省に言われるまま震災復興財源を名目にバカな復興増税をやり、社会保障を名目に消費増税を進めた。このことを安倍さんは回顧録で批判していますが、今の岸田総理は、財務省の政策に寄り添って、防衛財源を名目に防衛増税を打ち出し、少子化対策という社会保障を名分に消費増税をやろうとしている。そっくりでしょう。岸田総理も当時の菅直人総理と同じように、財務省に注射されているのでしょう。経済政策についてわかっていない総理ほど、注射はよく効く」
安倍ブレーンの1人で、財務官僚出身ながら公務員改革に取り組んだ高橋洋一・嘉悦大学教授は、岸田首相と安倍氏の「戦う姿勢」の違いをこう指摘する。
「安倍内閣と菅内閣はコロナ対策で100兆円規模の予算を組みましたが、増税は一切しなかった。財務省に対して『文句を言うな』と増税は一切認めないとの姿勢を貫いて黙らせたのです。しかし、岸田首相は43兆円の防衛費増額くらいで増税するといっている。
以前、岸田さんが政調会長の頃、安倍さんの要請でレクチャーしたことがあるが、意味がないと感じた。私が説明した後に財務省が岸田さんに、『高橋の言ったのは間違いです』と説明する。人は後から聞いたことのほうを信じるでしょう。
でも安倍さんは違った。財務省が上書きしてくると、上書きしてきたことを私に教えてくれる。その上で、財務省の説明が本当なのかを私がさらに上書きする。私は財務省の“洗脳”を解くいわば解毒薬の役割でした。岸田さんにはそうした解毒薬、セカンドオピニオンがないから財務省の言いなりになってしまう」