2月8日に発売されるやいなや、国内外で反響を呼んでいる『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)。森友学園問題を追及し続けてきたジャーナリスト・相澤冬樹氏は山口県下関市で思いがけず妻・昭恵さんに遭遇。本の内容について「全部いいです」という彼女の感想を聞くこととなったが、安倍氏は同書のなかで森友学園問題について重要な新証言をしている。相澤氏がレポートする。【前後編の後編】
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土地取引は「深刻な問題」
安倍政権を揺るがせた森友事件だが、記憶が薄れている人もいるのではないか。様々なことがあって複雑になった感があるが、根本は極めて単純だ。国有地の値引き売却が不当ではないかという疑惑である。
財務省近畿財務局が森友学園に9億円の国有地を8億円も値引きして売った。昭恵さんは学園の小学校の名誉校長だった。昭恵さんと籠池夫妻のスリーショット写真が国との交渉で持ち出されたこともわかっている。そこで「首相の妻に忖度したんじゃないか」と国会で炎上。“忖度”という聞き慣れない言葉が一躍、流行語になった。
話を『安倍晋三回顧録』に戻すと、安倍元首相も同書で森友事件に言及している。313ページ、「安倍政権を倒そうとした財務省との暗闘」という見出しの一節だ。
〈森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない〉
消費増税先送りを巡る暗闘があったため、政権を倒したい財務省の策略だったのではないかという見立てだ。さらに続けて、こう書かれている。
〈財務省は当初から森友側との土地取引が深刻な問題だと分かっていたはずなのです〉
これは重要な発言だ。安倍氏は政権当時、値引きは地中で見つかったゴミの撤去費だから“問題ない”という財務省の主張を追認していた。ところが「深刻な問題」だと自ら認めている。251ページにもこうある。
〈この土地交渉は、財務省近畿財務局と国土交通省大阪航空局のミスです〉
問題の土地で新たに見つかったゴミの処理が不適切で、籠池氏に裁判を起こされそうになって慌てた官僚たちが値下げをした──安倍氏はそんな筋立てで事件を読み解いている。そのうえで、だが官僚は「絶対に間違いは犯していない、という立場を取る」とも述べている。首相在任中は言えなかったことも退任後は言えるようになったということだろうか。
値引きは正しいか、不当か? 真相解明は今も十分可能だ。ボーリング調査をすれば、地中深くのゴミが本当にあるのかどうか、わかるはずだ。値引きが不当だというのは、大阪府不動産鑑定士協会が3年前に公表した報告書でも指摘されている。ゴミの撤去費用は「信用性に欠ける」とし、値引きの根拠とされた鑑定について「依頼者である近畿財務局の意向に沿う形で鑑定評価書が作成され、結果として依頼者に都合良く利用された」とある。
森友事件は、「安倍氏の関与があったか」に焦点が集まり、政治的対立が深まったため解明が進まなかった側面がある。本来ならまずは値引きが正当かを解明すべきだ。