北は北海道や東北、南は沖縄や奄美や小笠原まで、足かけ6年を費やして総勢数千名の信者と会い、うち135名の証言をまとめた、最相葉月氏の最新作『証し』。その1000頁を優に超す厚さと重さは、この国のキリスト者達の一言では括りがたい在り様をそのままに物語る。
実は日本ではキリスト系の学校や行事も多いわりに、信者数は人口の約1.5%。〈親しんではいるが、信仰はしていない人が大多数のこの国に生きる、一パーセント強のキリスト者がどのような人たちなのか。彼らの声に耳を傾けたいと思い、筆者が旅に出たのは二〇一六年の初めだった〉
その旅を九州から始めた著者自身、ミッション系の幼稚園や大学に通いながら信仰はしなかった1人でもあり、〈なぜ、あなたは神を信じるのか〉という素朴にして深遠な問いは、非信者が生きる今をも映し出す。
「元々は何の計画性もなく、とにかく人に会って、話が聞きたかったんですね。今はSNS全盛で誰もが物を言う一方、本意そっちのけに切り取られたりと、言葉が酷く軽んじられている状況にほとんど怒りに近い感情を抱いていたんです。せめて私にできるのはネットには載っていないことを書くことであり、人の話を納得ゆくまで全部聞くことだという思いが、Twitterが上陸した2008年前後からずっとありました。
そんな頃、昨年亡くなられた中井久夫先生と出会い、カウンセリングの起源について調べる中、実はそれが占領下に来日した宣教師の息子を通じて日本に入り、彼がカウンセリングの生みの親の心理療法家カール・ロジャーズの弟子だったことも、『セラピスト』(2014年)の取材で初めて知った。つまりその宗教色が脱色された形で日本に入り、方法論だけが残ったわけです。これは驚きでしたね」(最相氏、以下同)
さらに『ナグネ』(2015年)に登場する中国朝鮮族の友人の実家が禁教下の中国で地下教会を営んでいたことなど、いくつかのきっかけが重なり、聞く対象がキリスト者に絞られていったという。
「その友人とは駅でたまたま行き先を聞かれて以来、かなり親しくなったんですけど、『こんなに素晴らしい世界を信じないなんてどうかしてる』とか、帰り際に上から目線で言われる度に、喧嘩になるんです(笑)。むろん彼女には彼女なりの事情があったんですが、もはや日本に生活レベルで入り込むキリスト教というものを、一度きちんと知る必要があるだろうと」