ネット、とくにSNSでの流行とは本来、長続きしないものだ。ところが、飲食店での迷惑行為を撮影した動画が次々と拡散されてしまうという”流行”は予想外に長引いている。そして、新聞やテレビなど社会的に影響があるニュースを日々、送り続けているメディアも、従来であれば動画炎上を取り上げるのはせいぜい、最初の一、二例だった。ところが2023年のいま、迷惑動画による炎上についてのニュースが次から次へと続いている。ライターの宮添優氏が、なぜ今回は迷惑動画についてニュースが取り上げ続けているのかについてレポートする。
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SNS投稿から始まった「動画炎上」騒動が、おさまりそうにない。
レーンの寿司に手を触れたり、醤油差しをなめるといった回転すし店での不適切行為は、SNSでの炎上直後にワイドショーでも毎日報じられ、海外メディアでは「寿司テロ」などと紹介されたほど。とはいえ今般の騒動、ある程度ネット歴の長いユーザーであれば、最近の新しい出来事というよりも以前の「バカッター」を思い出すに違いない。大手社会部記者が説明する。
「2013年のネット流行語大賞4位に選ばれた”バカッター”は、コンビニの冷凍庫内に入るなど店舗内での不適切行為や、暴力行為などの一部始終を収めた動画をTwitterなどで公開し炎上する一連の行為の事を指します。今回、”バカッター”に似た形で毎日のように報じられていますが、十年前と違って、まだ続くのかよ……なんて、記者も辟易しているというのが正直なところです」(大手紙社会部記者)
確かに「第2のバカッターブーム」と思わずにはいられないほど、次から次へと非常識な行動をおさめた動画が毎日のように文字通り「炎上」している。既視感たっぷりで目新しいところはないように見えるが、かつてのそれとは明らかに違う点がいくつかある。記者が「辟易」してしまうのもこの点だ。
「トラブルに巻き込まれた会社が、公式に謝罪するようになったんです。以前は、公式にトラブルを認めたり謝罪など何らかの対応をする会社は少なかった。所詮はネットの出来事ということで、迷惑行為をしたほうが悪いことは明らかだし、それは特殊例だと世間も承知していましたから。ただ今回は、トラブルに巻き込まれた運営企業の株価が下がるなど、企業側もしっかりと対応せざるを得なくなってきたし、厳しいコメントを出さなければさらに炎上してしまう可能性もある。昔なら単なるお騒がせで数例を報じたらニュース性が落ちて取り上げなくなっていったのが、経済事情に影響を与える事件になるから、我々もその都度、報じる必要性が出てくるのです」(大手紙社会部記者)