多様性が重要な時代、思考も柔軟であるべきだろう。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
* * *
「カスハラ」(カスタマー・ハラスメント)という言葉が話題になっています。顧客(カスタマー)がお店や施設に対して、暴言や理不尽な要求(ハラスメント)をぶつけること。長時間ネチネチと文句を言ったり、机を叩くなどして脅したり、土下座を強要したり、「ネットに書き込んでやる」などと脅したりなど、さまざまなパターンがあります。
人間の「カス」が勝手に「ハラ」を立てて弱い者いじめをするという意味にも見えますが、大きく間違ってはいません。対応する側はたまったもんじゃないし、ほかのお客さんにも迷惑です。先日も、ラーメン店でつけ麺を注文して「なんで麵が冷たいんだ」と言って暴れ出した男性客を、店主が「私人逮捕」したというニュースがありました。
日本労働組合連合会(連合)が2022年11月に行なった調査では、直近5年間でのカスタマー・ハラスメントについて、4割近くの人が「発生件数が増えた」「深刻さの変化を感じた」と答えています。理由として「格差、コロナ禍など社会の閉塞感などによるストレス」や「過剰な顧客第一主義の広がり」を挙げる人が多かったとか。
さらに別の調査では、カスハラをする人の7割が「50代以上の男性」という結果が出たとか。逆に言うと、男性にとって50代以上は「カスハラしがちなお年頃」と言えるでしょう。実際に目にするケースでも、飲食店やコンビニのレジなどで理不尽な怒り方をしているのは、おっさんやおじいさんがほとんどです。
カスハラをしている人は、自分が理不尽なカスハラをしているとは思っていません。正当な理由があって、正当な怒りをぶつけ、相手の間違いを正してあげているつもりでいます。はた目にはどんなにみっともなくても、もしかしたら本人は気持ちがいいのかも。ネットで「悪者」を叩いてドヤ顔している人と似てますね。
中高年男性に置かれましては、迷いなくカスハラができる〈カスハラオヤジ〉になれたら、毎日を楽しく気持ちよく過ごせるかもしれません。立場的に言い返せないことがわかっている相手に文句を言えば存分に万能感に包まれるし、自分の勘違いや落ち度を息を吐くように相手のせいにできたら、どんなときも強気でいられます。
人生の新たな可能性を探る試みとして、無敵の〈カスハラオヤジ〉を目指すのも一興かも。「実践編」と「心得編」に分けて、近づくための方法を考えてみました。