安倍晋三・元首相が足かけ10年近くに及ぶ長期政権を振り返った『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)は国内外で大きな反響を呼んでいる。一方、回顧録で安倍氏に名指しで批判された人々からは、「亡くなった方とはいえ、言われっぱなしでは公正性を欠く。正しい歴史の検証に耐えるためにも、我々にも言わせろ」と反論が巻き起こっている。その1人がジャーナリストの鳥越俊太郎氏だ。
鳥越氏は2016年の東京都知事選に出馬、選挙戦は民進党や共産党など野党連合が支持する鳥越氏、自民党や公明党が推薦した増田寬也・元総務相、そして小池百合子氏との三つ巴の戦いとなったが、「小池旋風」で最終的に小池氏が大勝した。安倍氏は回顧録でこの時の都知事選についてこう語っている。
〈民進党や共産党の支援を受けた鳥越俊太郎氏は、「安倍政治をストップ」と掲げて出馬した。それを言うなら、国政に出ろよ、と思いましたが。
私としては、首都をあずかる立場に鳥越氏が就くのが最も好ましくありませんでした〉
この証言について、鳥越氏の話を聞いた。
「回顧録には、『首都をあずかる立場に鳥越氏が就くのが最も好ましくありません』という言葉がありましたが、安倍さんにそこまで私のことが認知されていたのはちょっと意外でした。
私としては、嫌いな人間のことを口にすること自体、あの人はしないんじゃないかと、自分中心の人だと思っていたからです。それが“私のことも気にしていたのだな”と、回顧録を読んでみて、まずそう感じました」
さて、ここからが本題だ。
「安倍さんは、『鳥越俊太郎氏は、〈安倍政治をストップ〉と掲げて出馬した。それを言うなら、国政に出ろよ、と思いました』と語っている。これについては、筋論ではまさに安倍さんの言うとおりなんですよ。
しかし、言わせてもらうなら、あの頃は参院選が終わったばかりで、自民党を中心とする改憲勢力が憲法改正発議に必要な衆参の3分の2を占めたことで、私は安倍政権がいよいよ憲法改正に手をつけると危機感を抱きました。
それで、『安倍政権にNO』という国民の気持ちを、何らかの形で国民や安倍さん本人にも伝えたいと考えて目の前に迫っていた東京都知事選に手を挙げることにしたわけです。
もちろん、本来の政治のあり方からいえば、衆院選に出て、総理大臣の椅子を持って、自分の政策を国政に反映させるというのが真っ当なやり方でしょう。回顧録の中で『国政に出ろよ、と思いました』という安倍さんの言葉は、その点を突いている。それに対しては、『安倍さん、あなたの言う通りだよ』という思いです。私としては、あの時は都知事になることが最終目的ではなく、『NO安倍』をなんとか世の中に伝えたいという思いが強かったんですね。
いずれにしても、安倍さんが私の都知事選出馬のことを回顧録で語っていたということを知って、私は改めてあの時の出馬の手応えを感じている。安倍さん、オレのこと覚えていたのか、オレのことが目に入っていなかったわけじゃないんだ、と」