側近秘書官の差別発言が「オフレコ破り」され、外遊に同行した長男の「公用車で観光」が報じられ、日銀総裁人事はまさかの“誤報”も飛び出した。ドタバタ劇を繰り広げている岸田首相の周囲で、いったい何が起きているのか。政治部記者たちの覆面座談会からその内幕を読み解く。【全4回の第1回】
この政権の危機管理意識の低さは度を超えている。北朝鮮が「米国全土が射程に含まれる」(浜田靖一・防衛相)とみられるこれまでにない性能の新型弾道ミサイルを発射した時、岸田首相は予定を変えずに鼻の術後の処置のため病院に向かい、そのまま治療を受けた。「病院内においても、逐次報告を受けた。意識は絶えずしっかりしており、支障がなかった」。そう弁解に追われた。
日本上空でたびたび目撃された気球についても、首相は「中国の無人偵察用気球だと強く推定される」と発言したが、今回米国が自国内の気球を撃墜するまで日本政府は中国に抗議すらしていなかったばかりか、今頃になって「自衛隊の武器使用基準の緩和を検討する」と言い出した。
緊張感のなさは首相官邸内に蔓延している。岸田首相の信頼する側近秘書官はLGBTなど性的少数者をめぐるヘイトスピーチで更迭に追い込まれ、日銀総裁人事は事前に情報がダダ漏れ、“戦時体制”の欧州諸国を歴訪した首相に同行した息子の秘書官は外遊先で買い物三昧。こんな有様で国を守れるのか。
日々、官邸で取材を続ける政治部記者が語る。
「北朝鮮のミサイルが飛んだ時、総理が予定通り鼻の処置に向かっていったことに記者たちはみんな驚いた。今回は“池ポチャ”ではなかったから緊張感が高く、安倍政権や菅政権なら、すぐ官邸に引き返すという判断をしたはずです。それなのに岸田総理は40分も戻ってこなかった。本当に危機意識が低い人だと改めて感じた」
そこで本誌・週刊ポストは官邸詰めや自民党担当の政治記者4人による、内側から見た「岸田政権の正体」についての覆面座談会を開催。発言者を特定されないために社名、担当部署は伏せるが、記者AとBはキャップクラスのベテラン、記者CとDは第一線の若手だ。
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司会(編集部):まずは報道の裏側を聞きたい。日銀総裁人事をめぐる日経新聞の「政府、雨宮氏に総裁就任打診」報道は為替相場まで動かしたが、読売は打診もなかったと書いている。岸田首相も観測気球といっていた。
記者A:私はある政府高官から、雨宮正佳副総裁には打診すらしていないと聞いた。だから“世紀の誤報”だったのではないか。日経は「政府与党幹部が明らかにした」という書き方をしていたが、あのタイミングでは政府与党幹部は知らなかった。公明党の山口那津男代表も日経報道を見て「私は聞いていない」と言っていたそうだ。
記者C:あれは日経の政治部の勇み足と聞いています。経済紙の日経としては面子にかけても日銀総裁人事で他社に先に抜かれるわけにはいかない。雨宮さんには総理が直々に総裁就任をお願いしていて、さすがに断わらないだろうと政治部が判断して打診段階で報じた。ところが、雨宮さんが断わってしまった。理由は、奥さんの体調が思わしくないということだったと聞いています。
記者B:いや、岸田総理は昨年末くらいからある社の取材には「雨宮とは書かないほうがいい」とずっと言っていた。雨宮さんが最有力だったから、記者は「書きたいんですけど」と迫ったが、岸田さんから「それはやめとけ」と。「だったら誰なんですか?」と聞くと「そんなの言えるわけないだろう」と言われていた。誤報を打たなくて済んだのはその言葉があったから。雨宮さん本人も受ける気はないと言っていた。日経が総理からどう聞いていたかは知らないが、他社にスクープされるのが怖いから先に飛び降りてしまったんだろう。
〈日経広報室は「日銀総裁人事について、『日銀総裁、雨宮氏に打診』と報じた内容は事実だと把握しています。最終的に雨宮氏は就任を固辞、植田氏に固まった事実も他メディアに先駆けて報道しています」と回答した。〉