その点、一度は画家を志した経験が、描く立場の理解に繋がったという。
「昔は画家の精神の営みにまで踏み込んで表現を考え、そこに現われる個性に着目する日本美術史学者なんて、ほぼいませんでしたから。私はその点でも変わり者で、人間はなぜ描くのかという根源的謎について、最近はよく考えたりします」
どんな環境でも「そこでしか愉しめない事」を愉しみ、その半生を「運任せ」と評する辻氏。運や縁に臆せず身を預ける風通しのいい人だからこそ、若冲もやってきた?
【プロフィール】
辻惟雄(つじ・のぶお)/1932年名古屋市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒。同大学院博士課程中退(1995年に文学博士号)。東京国立文化財研究所技官、東北大学教授、東京大学教授、国立国際日本文化研究センター教授、千葉市美術館館長、多摩美術大学学長、MIHO MUSEUM館長等を歴任。東京大学・多摩美術大学名誉教授。2016年文化功労者。2017年朝日賞。2018年瑞宝重光章。著書は他に『奇想の図譜 からくり・若冲・かざり』『あそぶ神仏』『日本美術の歴史』等。165cm、52kg、O型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2023年3月10・17日号