白煙を上げ、轟音とともに崩れ落ちる建物と、放り出された人々。トルコの大地震は世界中に衝撃を与えた。そして知ってのとおり、わが国も地震大国。同じ規模か、それ以上の大地震がいつ起こるとも限らない。もっとも起きる確率が高いのは「首都直下地震」──そのとき、東京に“安全な場所”はあるのだろうか。【全4回の第4回】
首都圏は日本中でもっとも建物の建て替わりが激しい都市であり、10年前とは大きく変化している。東京都立大学名誉教授の中林一樹さんが言う。
「古い建物を壊して新しい建物に建て替えれば、揺れによる被害も、出火も減る。木造でも耐火資材を使った建物が増えたため、昨年5月に公表した都心南部直下地震の被害想定では、全壊・全焼の被害は10年前の3分の2ほどになっています。
具体的には、2013年に約30万棟だったのが、昨年には約20万棟となりました。とはいえ、阪神・淡路大震災11万棟、東日本大震災12万棟と比べると、国家としても未曽有の地震であることは間違いありません」(中林さん・以下同)
では、いまから10年後、大きな被害が出るとしたらどのような場所になるのか。
「今後は、一見想定される被害が大きくないように見えるところにこそ、課題が増えるでしょう。例えば、今後も増えるとされる都心のタワーマンションは、南海トラフ巨大地震では長周期地震動が災いし、東日本大震災のときより大きく揺れる可能性も充分にあります」
巨大地震が発生すると、周期が長くゆっくりとした大きな揺れが生じ、そうした地震動のことを「長周期地震動」と呼ぶ。高層ビルは特に長周期の波と共振しやすく、一度共振すると10分以上も揺れ続けてしまうのだ。
「これにより、ほとんどの家具や机が移動・転倒し、電気や上下水道はストップ、エレベーターもすべて停止します。電気もトイレも使えない環境で、歩いて数十階分もの階段を上り下りすることができる人などいるでしょうか」