仕事も含めて私が出会う人に、東京の人か上京組か、いきなり聞くことはないし、それほど興味があるわけではないのよ。でもちょっと話すと「ん?」と思うんだよね。
たとえば道を聞いたときに、「あそこの角を右に曲がって……」と言いながら、“あそこの角”が見えるところまで連れていってくれたら東京人確定。こういう親切というか、おせっかいを家賃やローンに追われている田舎者はしにくいんだよね。
それから、東京人は東京に興味がない。決まった行動半径だけで生活していて、そこから出るのをすごく面倒がるんだわ。たとえば文京区で生まれ育ったО氏(58才)は、「麻布? 2、3度行ったことあるよ」と言うし、赤坂生まれのМ子さん(61才)は、「柴又って東京だったのね。てっきり千葉だと思っていた」。
ふだん行く居酒屋、ちょっと気張ったときに出向くレストランが決まっていて、お歳暮を買うデパートも祖母の代から三越とかカッチリ決まっていてゆるがない。
気遣いも独特で、私が上京してきた1970年代後半は、いまでは考えられないような風習が残っていたの。
6畳一間、風呂なしのアパート住まいの私に、突然、大家さんから「これ、受け取って」と金一封を渡された。何かと思えば、近くに家事があったので「町会から近火見舞いが出たのよ」と言うんだわ。町会費も払っていないどころか家賃だって遅れ気味だしと、封筒に手を出せずにいると、「それはそれ、これはこれ」と言って強引に押しつけられた。千円札が2枚入っていた。私はこの「近火見舞い」を2度もらっている。千円札を数えて暮らしていた若い日、こういう東京の人のやさしさにどれだけ助けられたことか。
井上さんと撮ったツーショットを眺めながらそんなシーンの数々を思い浮かべて胸を熱くしていたら、携帯に見知らぬ番号。「もしもし、井上です」って、ちょっと、マジ!?
「昨日はとても楽しく取材をしていただいてありがとうございました。寒い日が続きますからお体、気をつけてね」ってスターから電話をいただくなんて!
思えば、こんなことをサラッとできるのも東京人なのよね。井上さん、大好き(ハートマーク)。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2023年3月16日号