ネットでの発信は実名と匿名どちらであるべきかという論争がかつては盛んだった。匿名だと無責任な暴言でも躊躇なくしてしまうから、というのが当時の実名派たちの主張だったが、最近はこの種の論争そのものをあまり見かけなくなった。実名か匿名かではなく、ほぼ「知らない人」に向けて、ぶしつけなメッセージを勝手に送ってくる人の問題へと、対策すべきことが変わってきたからだ。ライターの森鷹久氏が、第三者にSNSを探られたうえにリアルで追いつめられる体験についてレポートする。
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ネットインフラの拡充により、SNSユーザーは爆発的に増加した。今や、80代や90代の高齢者がFacebookやTwitterのアカウントを所有しているという例も少なくない。新しいコミュニケーションツールを楽しく使いこなす様子が見られる一方で、個人情報を「書きすぎる」、もしくは「全世界に公開してしまっている」例が散見される。中には自宅住所が映り込んだ郵便物を安易にアップしたり、「明日から家族全員で旅行に行く」と投稿するなど、防犯上の観点からも、危険きわまりないものも目につく。
逆に、若いユーザーは名前と勤務先や出身学校程度しか出さない、もしくはニックネームなどを用いて、個人情報をできる限り非公開にして使っている。授業などでも取りあげられる「ネットリテラシー」の重要さをある程度は認識し、若い人なりに個人情報を守ろうとしているのだろう。
いわゆる「個人情報」とは、名前だけだとそれには該当しないとされる。そこに住所や電話番号、クレジットカードや銀行口座情報などが紐付けられて、初めて(利用者側に)有益な「個人情報」となるという。SNSやネット情報のおかげで、名前で検索するだけで住所や勤務先、行きつけの店や交友関係などの情報が紐付けることも可能だ。
バイト先の名札からSNSを探されて
都内在住の会社員・坂本あかねさん(仮名・20代)は、学生時代にアルバイト先の飲食店で、SNSを巡る恐怖体験を経験したと語る。
「実名でやっていたFacebookに、ある日、まったく知らない人から友人申請があったんです。間違いかも知れないと放置していたのですが、数日経つと、今度は同じ名前の別のアカウントからまた友達申請が来たんです。誰かのいたずらかと思いましたが、誰に聞いても心当たりはないらしく、気味が悪くなりFacebookのログインを控えていたんです」(坂本さん)