春は卒業や旅立ちと同時に、新しい出会いの季節でもある。静岡県の中小私鉄である静岡鉄道株式会社では、約半世紀にわたって親しまれてきた車両の引退が迫っている。地元の人から静鉄(しずてつ)と呼ばれる同社では2016年から次の新型車両の導入が始まっているが、地方私鉄としては珍しく、すべて新造の新型車両だ。ライターの小川裕夫氏が、なぜ静鉄は費用がかかっても新造車両導入に踏み切ったのか、レポートする。
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国民的マンガ・アニメ「ちびまる子ちゃん」の作中では、主人公のまる子が電車に乗って出かけるシーンがたびたび描かれている。2018年に亡くなった作者のさくらももこさんは旧清水市入江岡の出身なので、描かれているのは静岡鉄道(静鉄)の電車であることが多い。実際、静鉄の静岡清水線には入江岡駅がある。
そうした縁もあり静鉄は2005年から、ちびまる子ちゃんラッピング電車を運行してきた。これは、アニメ「ちびまる子ちゃん」の放送開始から25周年と、株式会社ドリームプラザが運営するちびまる子ちゃんランドの開館15周年を記念した取り組みでもある。
10年以上にわたり運行されてきたちびまる子ちゃんのラッピング電車だが、以前からラストランは2023年3月26日とアナウンスされてきた。間もなく、ラッピング電車は見納めになる。
「ちびまる子ちゃんラッピング電車は、静鉄の顔とも言える1000形という車両を使っています。同車は1973年から静鉄で運行を開始し、今年は1000形デビューから50年にあたります。当時は最先端の技術を用いた1000形でしたが、50年という歳月が経過したこともあって、さすがに老朽化が目立ってきました。そうした背景もあり、静鉄は2016年からA3000形という新型車両の導入を進めています。1000形は2024年度までに全編成が運用を終了する予定です。ラッピング電車が終了するのも、そうした事情によるものです」と説明するのは、静岡鉄道鉄道部の担当者だ。
50年前に鋼からオールステンレスへ
静鉄が1973年に運行を開始した1000形は、オールステンレス車体ということで注目を浴びた。当時、地方鉄道では鉄製の車両ばかりが走っていた。それだけに静鉄の1000形は、地方私鉄が導入した革新的な車両として評判を集める。しかし、それはあくまで「地方私鉄」というエクスキューズが付く。なぜなら、1962年には東急電鉄が日本初となるオールステンレス車両を走らせていたからだ。