描かれていないはずのマツの林が見えてくる
【長谷川等伯『松林図屏風』(16世紀)】
長谷川等伯『松林図屏風』は、墨だけで描かれたマツ林の絵だが、一見、マツの木が数本あるだけ。林が描かれているようには見えない。ところが、じっと見ていると、何も描かれていない部分にまでマツがあるように見えてくる。それはなぜなのか。実は余白には墨の濃淡で霧が表現されており、画面の中に霧に包まれた林が感じられるのだ。
●墨の濃淡を使い分ける筆さばき
マツの枝の部分を拡大して見ると、マツの木に見えていたものは一見、荒々しく筆で墨を塗り重ねた跡にしか見えない。しかし、じっと見ていると、この部分の墨にも濃淡の変化があることに気が付く。絵師の長谷川等伯は墨の濃さと薄さを巧みに使い分けており、墨一色だけで余白の美までも描き出している。
(了。前編から読む)
構成/上田千春
※週刊ポスト2023年3月10・17日号