古今東西の名画約360点を紹介する絵画図鑑『小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画』が発売即重版、早くも10万部突破で話題となっている。子ども向けとあなどるなかれ。名画がユニークな切り口で解説され、謎解き感覚で鑑賞のポイントを押さえていけるのだ。頭をやわらかくして「絵画の世界」へ飛びこもう。【前後編の後編。前編から読む】
形の見えない雨はどう描く?
決まった形があるわけではなく、目にもとまらない速さで降る雨。絵師や画家たちは知恵を絞り、工夫を凝らして雨を描いた。
●雨を描かず、雨を感じさせる
【カイユボット『パリの通り、雨』(1877年)】
雨の風景の絵だが、よく見ると、雨そのものは描かれていない。しかし、傘をさして歩く人々をはじめ、しっとりと濡れて光を反射している街路の石畳、曇った空、湿気を含んだ鈍色の空気などによって、パリの街に雨が降っていることを見る人に感じさせる。
●降り注ぐ雨音が聞こえてくる
【歌川広重『「名所江戸百景」大はしあたけの夕立』(1857年)】
歌川広重は、激しい雨の様子を直線で表現するという発想でアッと言わせた。角度と濃度の違う2種類の斜めの直線を組み合わせることにより、絵に奥行きを生み出した。霞んだように見える遠景と、橋の上を急ぐ人々の慌しさが雨の激しさを強調する。ザーザーと降り注ぐ雨音が聞こえてきそうだ。
世界の巨匠を魅了した日本の浮世絵
江戸時代の日本の浮世絵は、ヨーロッパに伝わると多くの画家の関心を集めた。巨匠と呼ばれる画家たちの絵には、浮世絵の描き方やテーマを取り入れた作品が数多くある。
●ゴッホも思わずマネをした雨の描き方
【ゴッホ『日本趣味・雨の大橋(広重による)』(1887年)】
画家ゴッホは、上述した「大はしあたけの夕立」に描かれた雨を見て驚いたという。それまで、雨を斜めの直線で表現する描き方を見たことがなかったからだ。ゴッホはこの浮世絵を丁寧に写し取り、上の絵を描いた。橋、歩く人々、川、空がゴッホ独特の色彩とタッチで描かれている。漢字をまねた模様が絵の周囲に描かれているのも興味深い。
●自宅に日本風の橋を架けたモネ
【モネ『睡蓮の池、緑のハーモニー』(1899年)】
浮世絵に描かれた植物の自然な姿に心を打たれた画家モネは、下の絵に描かれているような日本風の丸く反った橋を自宅の庭に造り、絵に描いた。左の絵のヤナギの枝が池に垂れ下がっている庭は、広重が描いた「亀戸天神境内」に似ているとされる。