安倍政権時代の放送法に関する内部文書の流出で大紛糾している今国会。それは岸田文雄・首相にとっても“地雷”となり得るものだった。国外に目を転じても、いまだ実現できていないウクライナ訪問や、国内外から大批判を浴びた林芳正・外相のG20欠席問題など多くの課題を抱える。番記者たちが見た裏側とは──。【全3回の第1回】
党内の保守派に配慮
5月の広島サミットで議長を務める岸田首相は、G7首脳の中で1人だけ、まだ戦火のウクライナを訪問していない。
ウクライナ問題はサミットの最大テーマとなるだけに、岸田首相は議長の面子にかけても訪問したいと前のめりだが、極秘訪問の計画がしばしば外部に漏れ、官邸も外務省も「安全確保ができない」と尻込みしている。
しかも、国会では、野党議員が、テレビに対する報道規制強化のために放送法の解釈変更をしようとした安倍政権時代の官邸と抵抗する総務省側の具体的やりとりなどが記された80ページに及ぶ総務省の内部文書を暴露。その中には、当時の安倍晋三・首相と総務大臣だった高市早苗・現経済安保担当相の電話会談の内容まで書かれており、高市氏は国会で「捏造だ」と反論したが、総務省が文書は本物だと認めたことで政権を揺るがす大問題に発展している。ベテラン政治記者が言う。
「第2の森友事件の様相だ。あの時も安倍首相が国会で『私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める』と発言したことで財務省が文書改竄に走り、板挟みになった近畿財務局職員の自殺という悲劇を招いた。この問題の対応に岸田首相の命運がかかっている」
週刊ポストでは、前号(2023年3月10・17日号)につづいて、政治部記者覆面座談会を開催。今回は外交では戦火のウクライナ訪問、内政では“第2の森友問題”で火だるまになっている岸田政権の内憂外患がテーマになった。メンバーは前回同様、官邸詰めや自民党担当の政治記者4人、記者AとBはキャップクラスのベテラン、記者CとDは第一線で取材している若手だ。
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司会(編集部):文書は総務官僚OBでもある立憲民主党の小西洋之・参院議員が「総務省の職員から提供された」と出所を明言して公表した。総務省も文書は内部で作成したものだと認めざるを得なくなり、全ページを公表することになった。高市大臣は絶体絶命か。
記者C:高市さんが「文書は捏造」と議員辞職まで言及したのは踏み込みすぎでした。総務省はあれだけ詳細な資料を偽物だと言い逃れできないから、すぐ内部文書だと発表するつもりだったが、あの発言で認めるまで時間がかかった。岸田総理は総務省が方針を決めるまで、国会で本物かどうか曖昧な答弁をするしかなかったわけです。
記者B:それでも岸田さんは高市さんを切れないんじゃないか。防衛費増税について高市さんがツイッターで「理解できない」と批判し、会見で「覚悟を持って申し上げている」と解任されても構わない姿勢を見せた時も、岸田さんは党内の保守派に配慮してクビにできなかった。今回総務省が内部文書と認めたのに、高市さんは「議員辞職を迫るなら、内容が真実だと野党が立証せよ」と開き直っている。
記者A:文書が作成された当時の総務大臣は高市さん自身だ。大臣が役所から刺されたわけだよ。