2月16日の夕暮れ前、黒いパンツスーツの上にコートを羽織った元宗教2世信者の小川さゆりさんは、ベビーカーを押しながら夫とともに国会議事堂に向かっていた。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題をめぐって、立憲民主党など野党が国会内で開くヒアリングに参加するためである。
教団は5月7日に韓国で合同結婚式を実施予定だという。出席者からは、「解散を急ぐべきだ」という声が出た。
小川さんは、子どもの自由を守らないといけないと提起。ではどんな仕組みがあれば子どもたちを救えるかという質問が出ると、彼女はしばらく言葉を詰まらせた。
「大人だったら合同結婚式に参加したり、信じることは自由なこと。ただ、子どもたちは判断する能力がなく、自分で声をあげるのは難しい。宗教によって被害が生まれないような法律を国に作ってほしい」
小川さんの横にはもうすぐ生後1年になる長男がすやすや眠っている。国会を後にする時に、小川さんはつぶやいた。
「子どもたちのことを思うとつらくて、胸が詰まってしまった」
合同結婚式で出会った小川さんの両親は熱心な信者で、父は地区教会の教会長も務めた。2世は生まれながらにして原罪のない「神の子」と教えられてきたが、教義と現実の間に引き裂かれ、いつも孤独だった。
それでも、両親が好きだからこそ、教会中心の生活を送り、将来は合同結婚式で結婚することが夢だったという。だが、教会の教えとそれを信仰する両親に疑問を持ち脱会。安倍晋三・元首相銃撃事件を機に、「小川さゆり」の名で被害の発信を開始した。
今が一番自由になれている気がします
昨年10月には、彼女が日本外国特派員協会で行なった会見に際して両親の署名入りのファックスが届き、「会見中止」を要求されるも、「どうかこの団体を解散させてください」と涙ながらに訴えたことで注目を集めた。その後、被害者救済法案を審議する参議院の特別委員会に、参考人として出席。法案早期成立の立役者となった。
教団からの圧力に屈することなく戦う──。そのような強いイメージとは裏腹に、素顔の小川さんは明るく屈託がない女性だ。
3月7日に発売された自著『小川さゆり、宗教2世』の見本刷を旧統一教会被害者の知人に手渡したところ、「この表紙の写真あなたに似ているね、と言われた。本の表紙に映っているのが私だなんて思いもしなかったんじゃないかな」と笑顔を見せる。