ドラッグストアには色とりどりのパッケージが並び、病院に行けば何かしらの薬を出してもらえる“薬大国”の日本。中でも最も多く処方されているのは血圧を下げる降圧剤だ。しかしその中には、海外では用いられない薬がある。海外の医療に詳しい医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
「降圧剤は大きく分けて、カルシウム拮抗薬、ARB阻害薬、ACE阻害薬、利尿剤の4種類があります。日本ではカルシウム拮抗薬やARB阻害薬がよく使用される傾向にありますが、欧米では利尿剤が第一選択薬として選ばれることが多い。かつては利尿剤が血糖値を高める可能性があるといわれたために避けられる傾向にありましたが、現在ではそのような心配はないと考えられています。
そもそも降圧剤は高血圧の原因やほかの持病を勘案して慎重に選択すべきですが、日本では専門外の医師が処方することが多く、“なんとなく”の感覚で薬が選ばれる傾向にあります」(室井さん)
日本人の3人に1人と推定される高血圧と同様に患者数が多いのが、高コレステロール血症。日本では「スタチン」という薬が頻繁に処方されるが、米ボストン在住の内科医・大西睦子さんは、それも“ガラパゴス化”の代表例だと指摘する。
「アメリカの各専門医学会が検証し、無駄な医療を公開する『チュージング・ワイズリー(賢明な選択)』によると、75才以上で心臓病がない高齢者には、スタチンは必要ないであろうと指摘されています。そもそも、年を取ると自然とコレステロール値は上がっていくものです。アメリカでは服用することで生じる転倒、記憶喪失や混乱などの副作用や多剤併用との相互作用の方が大きな問題となっています」(大西さん)
年を重ねるとともにリスクの高まる認知症だが、進行を防ぐためには早期発見と投薬による治療が大切だともいわれる。しかしこれも世界基準とはまったく違う。
「日本では認知症薬『ドネペジル』が広く使われていますが、アメリカでは効果が限定的で、副作用もあると指摘されている。“早期アルツハイマーを治療できる新薬”とうたわれた『BACE阻害剤』も、認知症の原因になるといわれるアミロイドβの産生を抑えると話題になりましたが、実際に効果があるというエビデンスはありません」(大西さん)
認知症薬に懐疑的なのはアメリカだけではない。フランスにおいてもドネペジルをはじめとしたアルツハイマー型認知症薬は、「効果がないこと」を理由に保険適用から外されている。
なかにはこうした“病を治療し症状をやわらげるとされる”薬に頼らないようにしている人もいるだろう。しかし、未病を防ぎちょっとした不調を改善するために用いられる漢方薬も、海外ではあまり一般的ではない。
「特に胃腸の機能を整える『六君子湯』や『柴苓湯』は日本では人気ですが、海外ではほとんど見かけません。漢方薬は西洋医学の薬とは異なり、効果がはっきりと証明されていないため、過信は禁物です」(室井さん)