臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で活躍するラーズ・ヌートバー選手(25才)に寄せられる日本での人気について。
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侍ジャパンだけでなく、サッカー界にも広がっているWBC日本代表ラーズ・ヌートバー選手の”ペッパーミル”パフォーマンス。見慣れない仕草に、最初はこの選手は何をやっているんだろう?? と意味不明だったが、コショウをひく”グラインド”という言葉には「粘り強く頑張る」「こつこつ頑張る」などの意味のあるという。そんな応援メッセージのこもった仕草は、今や試合中、多くの選手が真似するほどのパフォーマンスに成長した。
ヌートバー選手は米大リーグのカージナルス所属の選手で、米国籍。今回、彼が日本代表に選ばれたのは、母親が日本国籍を持つ日本人だからだ。WBCには、親のどちらかが当該国の国籍を持っていれば代表になる資格があるという項目がある。とはいえ、栗山英樹監督が選ぶ代表メンバーは、日本生まれで日本で活躍しているか、活躍していた日本人とばかり思っていたので、初めて彼の名前を栗山監督から聞いた時の感想は、誰それ? なぜ日本のプロ野球選手から選ばないのか? だった。メディアや世間の反応もそんな感じだったと記憶している。
WBCが始まってみれば、ヌートバーの名前を聞くことが多い。攻守ともにヌートバー選手の活躍が目立ち、一生懸命の全力プレーに目を瞠り、明るく陽気な人柄に魅了されていく。ヌートバー選手が打席に立てば、観客席からは「ヌー」という声援”ヌーイング”が沸き起こり、それに応えて得点につながる打撃でチャンスを作るという働きぶりに話題沸騰。「彼と話したら、もう100%全員が好きになる」と代表メンバー選出時の栗山監督の言葉は、予言だったとさえ言われているが、本当にその通りだ。
この時、監督は「スポーツは国境を超える」とも述べた。だがヌートバー選手の起用は国境を超えるというより、我々日本人の中にある日本や日本人という意識や誇り、自負心をより強くさせているような気がする。言ってみればそれは「ナショナル・アイデンティティ」みたいなものを刺激されているのであって、国や国家、民族などで表されるネーションと書けば愛国心のようで大げさだが、日本代表チームを通じて自分たちのネーションらしさを知らないうちに再認識し、結びつきやつながりを重視していることに他ならない。