放送法に関する総務省の行政文書を巡り、高市早苗・経済安保相が連日国会で集中砲火を浴びている。だが、この問題は、高市氏1人で終わらない。岸田政権が吹っ飛ぶ“地雷”がいくつも埋まっているのだ。
官邸と霞が関が仕組んだ
総務省文書問題で高市氏は絶体絶命に見えるが、本当に追い込まれているのは高市氏を切れない岸田文雄・首相のほうだ。
誰が高市追い落としに動いているかを辿ると、その理由が見えてくる。安倍政権時代の放送圧力に絡む総務省内部文書の内容が国会で最初に追及された際、当時総務大臣だった高市氏は「捏造だ」と全否定し、事実なら大臣も議員も辞めると啖呵を切った。ところが、松本剛明・総務相が文書は本物だと認めて公表に踏み切り、そこから高市氏は不利な状況に陥った。官邸官僚の1人が明かす。
「役所が大臣レクの内容を記したメモを含めて行政文書を全部公表するのは異例な対応だった。たとえ国会で取り上げられた文書でも、役所が正式に公表する場合は発言部分に黒塗りを入れるが、今回はそれも一切しなかった。公表を決めたのは松本総務相だけの判断ではなく、官邸がゴーサインを出した。とくに官邸を仕切る木原誠二・官房副長官は防衛増税で公然と政権を批判した高市氏に思うところがあるようで、庇う必要は全くないという姿勢だ」
現職大臣が、官邸から撃たれたのだ。
政権内部には、高市氏を何としても“追放”したい勢力がある。岸田政権は発足以来、安倍路線を徐々に転換し、財政再建・増税路線を進めた。それに反発してきたのが高市氏だ。
岸田首相が麻生太郎・副総裁を最高顧問に据えて自民党内に総裁直属の財政健全化推進本部を設置すると、政調会長だった高市氏は直属の財政政策検討本部を作って対抗。また、昨年7月の参院選前には、経済政策の補正予算編成をめぐって高市氏は麻生氏や茂木敏充・幹事長と大バトルを演じ、与党協議から外された。岸田首相はそんな高市氏を昨年8月の内閣改造で入閣させて閣内に封じ込めたつもりだったが、抑えきれなかった。
昨年末の防衛財源をめぐって、高市氏が「罷免覚悟」で岸田首相の増税方針に公然と反対したことは記憶に新しい。自民党ベテラン議員は、「今国会で高市問題がにわかに浮上したのは仕組まれたからだ」と見る。
「官邸では木原官房副長官をはじめ財務官僚出身の総理の側近たちが、増税に反旗を翻した高市さんを邪魔だと思っている。文書問題で高市さんに不利な材料を出している松本総務相の親分は財務省のドンの麻生さん。松本氏自身も父の十郎氏(元防衛庁長官)が大蔵官僚出身だったから財務省にパイプがある。背後で、財務省と総務省という財政当局が、増税反対派の高市氏を追い落とそうと糸を引いている」