【著者インタビュー】辻堂ゆめさん/『答えは市役所3階に 2020心の相談室』/光文社/1760円
【本の内容】
序詞に《これは、二〇二〇年のどこかにいた、誰かの物語》とある。全5話から構成される連作短編集は、2020年、新型コロナウイルスに見舞われた日本のある市役所に開設された「2020こころの相談室」が舞台だ。《コロナ禍における心の不調やお悩み事を、専門の心理カウンセラーに相談することができます。ぜひお気軽にご利用ください》。日常生活が一変し、ある人は自ら、別の人はひょんなことから相談室を訪れて、悩みを打ち明けるが……カウンセラー2人のやり取りも楽しい、心温まるミステリー小説。
出産・育児とコロナの日本上陸が重なったと話したら
東大在学中に「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞して『いなくなった私へ』でデビューした辻堂ゆめさん。昨年、『トリカゴ』で大藪春彦賞を受賞するなど多彩な作品を次々と発表している。
新作の『答えは市役所3階に』ではコロナ禍の市民生活を描く連作短編ミステリーで、自分のつらさをなかなか言葉にできなかった一人ひとりの胸のうちを、カウンセラーとの対話を通して丁寧につむぎだす。
「私が初めての子供を出産したのが2020年の1月末で、コロナが日本上陸したのとほぼ同じ時期でした。感染拡大から自粛、緊急事態宣言となっていくのが自分の初めての子育てと重なってしまった、と打ち合わせで話したら、コロナ禍を話の中心テーマにしてみては?と編集者から提案されました」(辻堂さん・以下同)
市役所の3階で待ち受けているのは、コロナ禍を受けて開設された「2020こころの相談室」のカウンセラー2人。辻堂さんの『あなたのいない記憶』に登場した臨床心理士の晴川あかりと、初登場の認定心理士正木昭三である。
「人とのコミュニケーションが急に減って、若い女性の自殺率が高くなりましたよね。感染対策でみんなが引きこもると心の危機が訪れ、心の危機を何とかしようと大勢で集まると感染爆発するかもしれない。どうしたらいいのか。自分が何かできるわけでもないけど、よく考えていました。
市役所の相談室は、こういう場所があったらいいなと考えてつくったものですけど、設定を考えたあとで、当時住んでいた市でもコロナ禍で問題を抱える人の相談窓口を開設、そのお知らせが連載中にLINEで来ていて、私が考えたこともあながち的外れではないのかも、と思いました」