1日350g。これは、厚生労働省が国民の健康増進のための取り組み「健康日本21」で定めている、理想の野菜摂取量だ。生野菜なら両手で3杯分が目安で、毎日これを達成するのはなかなか難しそうだ。
だが、たとえ毎日山盛りの野菜を食べることができたとしても、充分な栄養を摂れていないかもしれない。野菜に含まれる栄養素は、ここ数十年で減少し続けているというデータが、世界中で報告されているのだ。
2004年、米テキサス大学オースティン校が、1950年と1999年の米農務省の栄養分データを比較し、43種類の作物に含まれる13種の栄養素の変化を記録した結果、たんぱく質やカルシウム、リン、鉄分などの減少が確認された。
また、2022年1月のオーストラリアの研究でも、スイートコーン、赤じゃがいも、カリフラワー、いんげんなどの一部の野菜で1980年と2010年を比較すると、顕著な鉄分含有量の低下があったと報告されている。
この傾向は日本も同様だ。文部科学省の「食品標準成分表」は、戦後の栄養改善のため、食品の栄養成分の基礎的データ集として1950年にまとめられたもの。この初版(1950年版)と最新版(2020年版)を比較すると、多くの野菜で鉄分をはじめとするミネラルやビタミンの減少が見られる。
例えば、ほうれん草の可食部100gあたりの鉄分は13mgから2mgに、ビタミンCは150mgから35mgに激減している。小松菜も鉄分4mgから2.8mgに、ビタミンCは90mgから39mgになっている。大豆もやしの鉄分は3mgから0.5mgに、ビタミンCは25mgから5mgに減り、β-カロテンのもとになるビタミンAは、にんじん100gあたり4050μgだったのが1500μgにまで減ってしまっているのだ。
文科省はこのデータについて「成分値を単純に比較すべきではない」と注意喚起している。確かに、約70年前といまとでは成分の分析方法に違いがあるほか、野菜の栄養素は収穫時期によっても異なる。鉄分の減少が特に顕著なのは、昭和の頃は野菜の調理に鉄鍋を使っていたからではないかとする説もある。