【書評】『最期まで家で笑って生きたいあなたへ なんとめでたいご臨終(2)』/小笠原文雄/小学館
【評者】三砂ちづる(津田塾大学学芸学部教授・作家)
いつも思っていた。死がそれほど恐ろしいもののはずはない、と。人類、これだけ死んでいるのだから、死に直面するたびに、残るものが打ちひしがれる……とか、そんなことはあるまい、と思っていた。ほとんどの死は、ほとんどの出生がそうであるように、恐ろしいことではなく、周りの人を先々の生に向けて励ますようなものであったのではないか。しかし、確かに周りがどうしようもない恐ろしい死も存在し、受け入れ難い恐ろしい出産もあった。それらになんとか対処しようと、人間は近代医学を発展させてきたわけだが、一旦発展をみると、全ての死も生も恐ろしいものでありうるから、医療施設で扱わねばならない、と思われるようになる。そのようにして私たちの生活から死が切り離されていった。出生と死から切り離されて、何か大切なものを失っていないか、ということにようやく少しずつ気がつきつつある。
訪問診療医と、介護保険、健康保険、高額療養費制度等に助けられ、がんの夫を家で看取った。穏やかな死で、最期まで家族の時間で、良い旅立ちだった。やりたいことはなんでもすることができたし、私にも後悔が残らなかった。「十分にしてあげられなかった」という思いが、看取ったものに少しも残らない、良い逝き方をしてくれた。でもかわいそうだったことがある。あんなに好きだったビールが飲めなくなったことである。最低限しか行わなかった抗がん剤と放射線治療の影響で味覚を無くしてしまいお酒が楽しめなかったのだ。
ベストセラーとなった『なんとめでたいご臨終』のNo.2となるこの本には、最期まで美味しくビールやお酒を楽しんで死ぬ方々がたくさん登場する。いいなあ。そのためには、病院などで死んではいけない。がん治療はよくよく考えた方がいい。がんではおおよそ穏やかに死ねる。必要以上に抗がん剤を使ったり無理な手術をしたりしなければ。