野菜に含まれる栄養素がここ数十年で減少し続けているというデータが、世界中で報告されている。2004年、米テキサス大学オースティン校が、1950年と1999年の米農務省の栄養分データを比較し、43種類の作物に含まれる13種の栄養素の変化を記録した結果、たんぱく質やカルシウム、リン、鉄分などの減少が確認された。
2022年1月のオーストラリアの研究では、スイートコーン、赤じゃがいも、カリフラワー、いんげんなどの一部の野菜で1980年と2010年を比較すると、顕著な鉄分含有量の低下があったと報告されている。
この傾向は日本も同様だ。文部科学省の「食品標準成分表」は、戦後の栄養改善のため、食品の栄養成分の基礎的データ集として1950年にまとめられたもの。この初版(1950年版)と最新版(2020年版)を比較すると、多くの野菜で鉄分をはじめとするミネラルやビタミンの減少が見られる。
もし、本当に野菜の栄養素が減っているのだとしたら、その原因はどこにあるのだろうか。立命館大学生命科学部教授の久保幹さんは、化学肥料による影響を指摘する。
「1950年当時は、有機肥料が主流でした。すなわち、人の糞尿をたい肥としていたわけです。ところが現在、日本で農業に使われている肥料の99%が化学肥料。世界の中でも日本の化学肥料依存度は高く、99.6%という統計すら存在します」
事実、化学肥料の「硫安(硫酸アンモニア)」の使用量は、大正初期に約8万6000トンだったのが、昭和初期には49万3000トンになり、昭和18〜22年の時点で244万7000トンにまで増えている。安価で即効性が高いことから、現在も主要な化学肥料の一種として使われており、現在の化学肥料の国内需要は少なくとも90万トンにものぼるとされる。久保さんによれば、化学肥料の生産性は有機肥料の約1.2〜1.4倍になるという。
「10aの畑に肥料をやるとき、有機肥料なら1トンほどが必要ですが、化学肥料なら100kgほどで済みます。また、分子が小さく農作物に吸収されやすいので、即効性がある。生産性や手間の差によって化学肥料が選ばれているのです」
だがその結果、土壌からミネラルや微生物が減り、それが野菜の栄養素の減少を招いているのではないかと、久保さんは続ける。
「有機肥料はそれ自体にミネラルが多いのです。そのため、化学肥料に頼ってつくられた野菜はミネラルが少ないと考えられる。また有機肥料は、土に棲む『菌根菌』などの微生物のえさになるため、畑にまくと微生物が増殖します。菌根菌には土壌の栄養素を野菜の中に入れる働きもあります。一方、化学肥料は微生物のえさにならず、数万種類あるとされる土壌の微生物は現在、1950年代の3、4分の1に減っているとされます」