古くからしゃがみ込むタイプの和式が中心だった日本のトイレ事情に、文明開化でもたらされた座るタイプの洋式が普及しはじめたのは1959年に公団住宅が採用してからのこと。いまでは、自宅のトイレの洋式率は9割を超え、外出先でも洋式を選ぶという人も多い。いまも多くの和式が使われている駅のトイレも、洋式化がすすんでいる。ライターの小川裕夫氏が、全駅トイレを洋式化した京成電鉄など、駅のトイレ事情をレポートする。
* * *
東京都渋谷区や荒川区で公衆トイレに女子専用が整備されていない問題が、話題を集めている。一昔前まで、公園や駅前広場の片隅に整備されていた公衆トイレは管理が行き届いておらず、お世辞にも衛生的とは言えなかった。そのため、緊急時に仕方なく利用する人がほとんどだった。
駅構内のトイレは、「公衆トイレよりマシ」といったレベルだったが、近年は清掃が隅々まで行くようになり、衛生面は格段に向上した。そして、現在は洋式化への改修がトレンドになっている。
全65駅のトイレを洋式にした京成電鉄
「京成は2020年に東京五輪が開催されることを見据え、2016年度から駅トイレの洋式化を進めてきました。2023年3月6日に西登戸駅の駅トイレが洋式化を完了し、全65駅のトイレが洋式になりました」と話すのは京成電鉄経営統括部広報・CSRの担当者だ。
京成は、東京・京成上野駅から成田空港へとアクセスする特急を走らせている。成田空港は日本随一の国際空港でもある。
京成は、日本に降り立った外国人観光客が最初に乗る電車となる。それだけに、外国人観光客が日本トイレを初体験するのは、成田空港か京成のトイレが多くなるだろう。それだけに、京成はトイレの洋式化と美化は課題になっていた。
訪日外国人観光客はコロナで消失したものの、政府は収束とともに入国制限を緩和している。すでに外国人観光客数は回復基調を見せており、再び訪日外国人観光客が目立つようになることは間違いない。また、海外に出る日本人も増加するだろう。
外国人観光客の増加を見込んでトイレを洋式化した京成だが、トイレ改修にはほかの目的も込められている。
「京成ではトイレを洋式化するのと同時に、環境負荷を軽減するために節水機能や暖房便座を備えたトイレへと改修しました。また、女性用トイレでスペースに余裕がある駅は通常の鏡よりサイズが大きい姿見を設置するといった工夫も凝らしています」(同)
さらに、京成は駅が立地する地域性も重要視したという。そのため、各駅のトイレはデザインやカラーリングが統一されていない。
「京成上野駅は周辺に博物館・美術館・動物園・音楽ホールなどの文化・芸術施設が集結していることから、トイレにも石造りをイメージしたタイルをちりばめています。また、国府台駅は和洋女子大学の最寄駅です。そのため、和洋女子大学の学生が選んだカラフルな部材を用いた内装デザインを採用しています」(同)