アメリカの企業「オープンAI」が開発した「ChatGPT」が急速に利用者を増やしている。その利便性から導入する企業、個人が増えているが、映画監督の井筒和幸氏はこの最新技術をどう考えるのか――井筒監督が自らの考えを綴る。
* * *
もう既に、世界中で1億人以上のユーザーがいる、アメリカ企業が作った、対話型人工知能の「ChatGPT」。日本でも仕事や遊びで使われている。どんな質問だろうと文章で入力すれば、すぐに回答文が返ってくるツールだ。
世の中の森羅万象、コト、モノ、ヒトの有りさまを知りたい時、ネットの検索エンジンで調べてもサイトがあり過ぎて、どの解説もホントかウソか疑わしく、それを確かめるのにまた検索して、結局、ロクな答えが得られないままのことが多い中、“ここに訊いてくれたら即答します”とばかりに開発された、よろず相談室みたいなものだが。
さて、どの程度の相談室なのか、因みに、知人の映画プロデューサーが、「オモシロい映画を作る方法を教えてほしい」と試しに入力してみたら、まるで屋台のおでん屋のおっちゃんが愛想で聞いてくるような質問だが、見事な応答があったというのだ。
そのロボットいわく、『面白いものを作るには、以下のポイントに注意することです。それは強いストーリーを作ること。ストーリーは観客を惹きつけるために非常に重要で、観客が興味を持てば見続けることができます。そして、登場人物が深く描写されることで観客は感情移入できます。ビジュアルやサウンド効果を使用することで楽しくなります。観客の感情に訴えることでストーリーや人物に共感できれば、より楽しめます。そして、ユニークであることで観客に新しい体験を提供できます。これらの要素を考慮して、魅力的な映画を…』と。中学校の映画研究クラブみたいな、ごもっともな回答だった。
昔から日本の映画人は、一スジ、二ヌケ、三ドウサと言ってきた。スジは共感できる脚本、ヌケは画面の写り、ドウサは役者の演技だ。映画の出来映えの8割はスジで決まるともいう。
ロボットの答えもほぼ変わらない。おでん屋のおっちゃんは今さら映画界に転職する気はないし、適当に聞き流すだろうが、このプロデューサーは、今までに関わった作品を振り返り、AIの言う通りに作れなかったことに反省したそうだ。
しかし、「そうは問屋が卸さんわ」と返したいところだ。 ロボットが指南するような映画はそんな簡単には作れないのだ。 昔に見た内田吐夢監督の『飢餓海峡』以来、惹きつけられたストーリーには出会ってないし、『復讐するは我にあり』で緒形拳さんの演じた連続殺人鬼には感情移入したものの、あんな心の底から恐ろしい映画は他に知らない。
サウンド効果を巧く使った娯楽映画はスピルバーグの『ジョーズ』ぐらいしか覚えていないし、逆に、『E.T.』の感情を煽る だけの大仰な音楽は興ざめだった。ユニークな、他に類のない話にはカネも 集まらないのだ。仮に要素が揃ってもオモシロいとは限らない。オレは悪役だという顔つきで登場する演劇口調の俳優がいたら、スリリングな話も台無しになってしまうのだ。