卒業アルバムに載る写真は、SNSで見かけるように映えていたり、キラキラしたりはしていないかもしれないが、現実の記録として「ありのまま」を受け入れるのが普通だった。ところが最近では、現実を受け入れず変更を要求する生徒と保護者が増えているという。ライターの森鷹久氏が、卒業アルバム編集をめぐる混乱についてレポートする。
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「デジタルになって、誰もがきれいで上手な写真を撮るようになってから、いろいろ変わりましたね。最近だと、女の子だけでなく男の子でも、自撮りの”加工”までする。写真うつりなど、昔の子なら気にしないような細かい所までチェックする。今の子達は本当に敏感ですよね」
千葉県内で写真館を経営する杉本義彦さん(仮名・50代)は、十年以上、地域の小中学校の卒業アルバム制作に携わっている。入学式から部活の大会、修学旅行にも泊まりがけで同行し撮影するが、それを数校掛け持つため、その負担は相当なものである。しかしほぼ一年間、大小様々なイベントで行動を共にすることで、生徒たちからも「杉本のおじちゃん」と慕われ、アルバムの納品時には目頭が熱くなることもある、かなりやりがいのある仕事だと話す。だがこの数年は、アルバム制作を巡って今までに無かったような「トラブル」が続発しているという。
「クラスの集合写真を撮る際、お休みしている生徒さんがいると、昔は後日別撮りして、集合写真の中に丸枠で入れていました。そういう子には不登校児も多く、複数の親御さんからも”遺影みたいで気の毒だ”というクレームが出て、今では“合成”が当たり前になっています。集合写真の撮影の際も、先生がお休みの生徒を合成するスペースを取るよう生徒に指示を出すんですよ」(杉本さん)
実際に杉本さんが合成したという写真を筆者も確認したが、集合写真の中に、周囲とは光の当たり方や色味の異なる生徒の写真が確かに合成されていた。一見するとわかりにくいが、撮影するシチュエーションも違えば、微妙な角度も違い、やはり合成であることはわかってしまう。当然に労力だって、以前に比べれば大きくなったものの、それでも「親御さん達の希望」であれば、杉本さんとしては従うしかない。卒アルにどんな写真が載るのか、かつて以上に生徒たちが気にしていることも肌で感じているからだ。
「集合写真でも個人写真でも、撮影後に”見せて”と生徒がやってくる。昔なら、いい顔とか変な顔とか笑い合って終わりましたし、もっと昔のフィルム時代なら“見せて”もなかったわけですよ。最近だと撮り直して欲しいと泣き出す子までいて、毎回、本当に苦労しています。以前なら、目をつぶった写真が数枚紛れ込むことは普通でしたが、今はそれすら許されない。フィルムと違って、デジタルで何百枚も撮れるようになったので、とにかく枚数を撮ってカバーしています。いくら子供さんでもお客さんですから、できるだけ要望には応じます。成人式など、後から写真館を利用してくれる可能性だってありますし」(杉本さん)