第95回のセンバツ高校野球は3回戦が終わり、ベスト8が出揃った。3月29日に迎える準々決勝のなかでも、屈指の好カードは昨年王者の大阪桐蔭と、昨秋の東京大会を制した東海大菅生の一戦だろう。東海大菅生の身長190センチ、体重105キロの巨漢エース・日當直喜(ひなた・なおき)が、全国から有望選手が集まる大阪桐蔭の強力打線をいかに封じ込めるか──それが勝敗のカギを握ることは言うまでもない。
3回戦の沖縄尚学に勝利後、日當は言った。
「高校野球といえば大阪桐蔭の風潮がある。そんなことはないんだぞ、という投球をしたいです。ビビって戦ったら次につながらない。“打てるもんなら打ってみろ”ぐらいの気持ちで」
筆者はおよそ1か月前、東海大菅生のグラウンドを訪れた。ブルペンでは日當がMAX150キロのボールを捕手のミットに投げ込み快音を響かせていたが、それ以上に驚いたのは日當のウイニングショットであるフォークボールだ。
一球毎に、日當はフォークの軌道を捕手に宣告して白球を投げていた。
「速いフォークいきます」
「次は右に曲がるフォーク」
「今度はボールからストライクになるフォーク」
「最後は左打者の膝元に落ちるフォークを」
同じフォークでも球速に変化(緩急)をつけ、さらに真っ直ぐに落ちるのか、右に落ちるのか、細かく軌道を決めて次々と投じていく。基本的にフォークは空振りを誘発する球種ではあるが、早いカウントでストライクが欲しい時などに、高めのボールゾーンからストライクゾーンに落として打ち損じを誘うフォークも投げ込んでいた。さらにシンカーやスプリットに加え、チェンジアップも投げるという。
山陰のジャイアンと呼ばれた島根・開星の白根尚貴(元福岡ソフトバンクほか)のような巨躯に似合わず、手先がとにかく器用で、手芸や裁縫も得意だと日當は笑った。
「フォークは全部で7種類あります」
センバツ2回戦の城東(徳島・21世紀枠)との試合では8回からマウンドに上がり、直球のみ27球を投げて無失点に抑えた。そして、満を持して先発のマウンドに上がった沖縄尚学との3回戦では5回以降、大ピンチを幾度も背負いながら本塁を踏ませず、1対0と完封勝利(被安打6、奪三振7)を挙げた。
「今日はフォークに助けられましたね。カウントを稼いで、空振りを取って、詰まらせて……決め球としていろんな種類のフォークを投げられた。まだまだ種類はあるんですけど、もっともっと投げて、もっともっといろんな方向に落とせたら」