棋王戦で渡辺明棋王からタイトルを奪取し、20歳8か月という史上最年少での6冠を達成した藤井聡太竜王。2022年度は6冠制覇だけでなく、JT杯、銀河戦、朝日杯、NHK杯を制して史上初の公式棋戦4冠も手にした。4月からは名人位への挑戦も決まっており、7冠、さらには史上初の全8タイトル制覇まで視野に入ってきた。
ほぼすべてのタイトル戦に顔を出し、公式棋戦も勝ち進んでいるだけに、対局日程は超ハードスケジュールとなっている。日々進化する最新型の研究に割く時間を確保するのも大変なはずだ。将棋ライターの松本博文氏はこう言う。
「藤井竜王は将棋の研究に高性能のPCを活用していることで知られています。対局や仕事の合間に、自宅に置かれたハイスペックのマシンで研究しているようです。もともと藤井竜王は自分でパーツを選んでPCを組み立てていたことで知られていますが、今は愛用していたCPU(中央演算処理装置)を製造するアメリカの半導体製造会社・AMDのブランド広告に出演しており、同社から無償で処理能力が高いマシン(推定200万円相当)の提供を受けています。高性能のマシンを使うことで効率よく研究を進めることができるとされています」
高性能のPCでAI将棋ソフトを動かしていくアプローチで、とりわけ序盤から中盤にかけての研究を進めるのだという。
「多くの棋士は、PC(AI将棋ソフト)と実際に対戦して棋力を高めるという使い方はあまりしていないと推測されます。それよりも自分が課題と認識する局面から先を、AIはどう考えるかを参考にしながら研究を深めていくわけです。将棋は次の1手で100通りの選択肢があれば、2手先は1万通りになるという世界。どんどん枝分かれしていくので、選択肢は膨大な量になります。だからこそ解明されない部分が残っているわけですが、PCの活用で効率化できる面もある。藤井竜王がよく採用する『角換わり』『相掛かり』といった戦型は、高性能のPCやAIを使うことで、もの凄く深いところまで研究できるようになった。
ただし、終盤戦は一局ごとに変わってくる部分が多いので、研究し尽くすというのはなかなか難しいんです。それは他のトップ棋士にとっても同じなので、終盤は地力の勝負になる。もちろん藤井竜王の研究量が豊富なのは疑いようがありませんが、そこを抜けた先の終盤戦の地力勝負でめっぽう強いから、驚異的なペースで勝ち星が重ねられるのです」