個性的な“読み”の名前が珍しくなくなっているが、当事者の親子はどのような思いを抱いているのか。徳島の名門・池田高校で甲子園を目指す一人の球児。名前は「赤彗星」と書いて「しゃあ」と読む。名を付けた父、そして名付けられた息子に、ノンフィクションライターの柳川悠二氏が話を聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
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世に生を受けた者が最初に与えられるプレゼントが「名前」だ。
ところが、読みを連想することが難しいようなキラキラネームを与えられては、その後の人生に少なからず苦労が伴うこともあるだろう。役所や病院、あるいは学校で、幾度も名前を呼び間違えられる人生を送るのだ。その度に訂正を余儀なくされるのだから、それなりのストレスがあって当然である。
長女「光宇宙(ララァ、20)」、次女「風光雲(フラウ、18)」、長男「赤彗星(シャア、16)」という關口家の三姉弟はそれぞれ名前を好意的に受け止めているのだろうか。父の唯さん(44)は、「名前に対する不満を聞いたことはありません」と言う。
「息子が小学校に入学する時に、いじめられたりしないか、少し不安はありました。ところが、同じクラスに『ジオン』くんという子がおった(笑)。赤彗星のクラスに(シャアが属する軍の名である)ジオンくんがいるなら、問題はないやろ、と。みんな気に入ってくれている。風光雲なんかは、『どうしたらこんな名前が思いつくん? 私に子供が生まれたらパパに名付けて欲しいから、今から考えておってね』と言ってくれています」
もちろん、子供たちの側がどう受け止めているかを尋ねる必要もあるだろう。そこで、風光雲さんにも話を聞いた。
「私は人と同じであることがあんまり好きじゃなくて、同じ名前の人と出会ったことのない風光雲という名前はめっちゃ気に入っています。漢字の並びも、可愛らしいというよりかっこいい感じですよね。確かに正しく名前を呼ばれたことはありませんが、それがむしろ普通じゃなくていいな、と思っています。苦労というと、テストの時なんかに、名前の画数がとても多くて、人よりも答案用紙の記入が出遅れてしまうことぐらいでした……。名字にある『關』も旧字で、めっちゃ画数ありますから(笑)」
本人が希望すれば、改名できることは風光雲さんも知っている。
「はい。だけど、一度も考えたことはありません」
父親である唯さんは元高校球児で、長女の光宇宙さんも高校時代はソフトボールに励んでいた。そして、風光雲さんは女子校高校野球の名門校に在籍したことがある。高校を卒業した今後は中学時代に弟と一緒に練習した全播磨硬式野球団でコーチを務めたりしながら、将来を考えていくという。
「これからの女子野球を背負っていく野球少女たちのコーチになって、女子野球をもっと広めていくお手伝いをしたい」(風光雲さん)
風光雲さんはアルバイトで得た給料の一部を両親に渡し、今後、専門学校や大学への進学を考えたとしても、学費はすべて自分の力でまかなうと決めている。
「私が野球に打ち込めたのも、姉が一生懸命アルバイトをして、両親を助けてくれたから。今まで尽くしてくれた姉には自由になってもらって、今度は私が家にお金を入れたり、弟に野球道具を買ってあげたりしたいんです」