日本を取り巻く分断の正体や、自由で平等な社会がかえって不自由さを生む皮肉さを脳科学や進化論、遺伝学をもって読み解くベストセラー作家の橘玲さん。新刊『シンプルで合理的な人生設計』も話題の彼が、最近関心を持っているのがホストクラブにハマり、その沼から抜けられない女性客たちの存在。通称「ホス狂い」と呼ばれる彼女たちを追い続けるノンフィクションライターの宇都宮直子さんと緊急対談を行った。
アプローチの違いこそあれ、互いに日本社会の「不都合な真実」に迫るふたりが、頻発する事件の読み解き方からシニア婚活の最新事情まで、日本を取り巻くシビアすぎる現実について語り合った。その第1回をお送りする(全3回)。
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宇都宮:橘さんの新著『シンプルで合理的な人生設計』、すごく興味深く拝読しました! 同時に、これまで自分が人生において「全く合理的でない」選択ばかりしてきたことに落ち込みもしましたが……(苦笑)。
橘:ありがとうございます。本の中でも書いたのですが、ホス狂いって、一見不都合極まりない選択に見えて、実はすごく“合理的な選択”だと思っていて……。女性にとってのロマンスの原型は、不愛想だけど圧倒的な強さをもつ「アルファ」の男と、献身的な「ベータ」の男の二人から愛されることですよね。実際、『風と共に去りぬ』から『トワイライト』まで、ラブロマンスの大半はヒロインがアルファとベータの間を揺れ動くストーリーですが、ホストクラブはそれをリアルに実現していて、すごいと思いました。
宇都宮:まさにその通りです。ホス狂いから聞くホストとの話って、どれも少女漫画に出てきそうなくらい、ロマンチックなんです。愛のこもったLINEをこまめにやりとりして、記念日にはプレゼントをもらって、時には恋人のようなけんかもして……ただし、「お金を払い続けている」という注釈がつきますが。
橘:そこは疑問に思ったところなのですが、彼女たちは「お金で買う愛」で満足できるんですか?
宇都宮:確かに「恋愛にお金を介在させるなんて、ムードがないというか、成立するのか」なんて言われますよね。
橘:セックスのあと、女の子に10万円の指輪を渡すのは恋愛ですが、1万円札10枚だと買春になる。愛はプライスレスだとされているからですが、ホストクラブのように、恋愛にあからさまにお金を介在させると幻滅するんじゃないかと思ったんですが、彼女たちは気にしないんですか?
宇都宮:やっぱり「ホス狂い」を名乗るような女の子たちって特殊なので、世間のスタンダードと同じとは言い切れないところもあると思うのですが、「お金を払っていることで逆に安心できる」と話す子も多いです。「ホストとの関係は、どんなにこじれてもお金さえ払えば、それがなかったことになって修復されるからラク」と断言して大金を貢ぎ続ける女の子もいました。
橘:なるほど。お金ですべての問題が解決できるというのは、消費社会ならではかもしれないですね。確かに普通の恋愛だと、どんなに頑張って愛しても同じだけの愛が返ってくることはないし。
宇都宮:それどころかあっさり振られたりする。見返りがもらえるとは限らないのが恋愛の難しいところです。だけど相手がホストならお金を払った分だけ何らかの形で返してもらえるし、よっぽどのことがない限り振られることもない訳です。あとは、「自分で稼いだ大金を渡してホストに認められることで、私にはそれだけの価値があることを実感できる」と言った子もいました。
橘:ホストに貢ぐことが自己肯定感と結びつくわけですね。