笹倉は笑顔を交えて思いを語った(撮影・比田勝大直)

笹倉は笑顔を交えて思いを語った(撮影・比田勝大直)

焼き肉屋でアルバイトも

 研鑽を積む中で、ベゼルの練習にプロのスカウトが視察に訪れることもあった。笹倉は昨秋のドラフトで指名を待っていたが、良縁には恵まれず。10月には神経障害や血流障害の一種である「胸郭出口症候群」を発症し、痛みで投げられない時期が続き、2023年が明けてすぐには3週間の入院を余儀なくされた。ちょうどその頃、代理人との契約も解消している。

 点滴治療やリハビリによって現在は左肩の不安が消え、取材に訪れた日のブルペンでは、およそ5カ月ぶりに捕手を座らせて白球を投げ込んでいた。左ヒジが少し下がったスリークオーターの投球フォームは高校時代から変わりないが、ケガ明けということもあってスピードは中学時代にも及ばない。

「投げ始めた頃は再発や癖になる怖さがあったけど、投げていくうちに不安は消えた。まだまだ全力では投げられていないんですが、ここまでは順調にきていると思います。球種は高校時代と変わらず、スライダー、カーブ、チェンジアップ、ツーシーム。自分のボールは、シュート成分が強くて、曲がったり落ちたりする。そういう自分の動くボールの特徴を活かして、相手打者が打ちづらいボールというのを追求したい」

 高校時代は打棒にも定評があった。だが、ベゼル加入後は二刀流をやめて、投手に専念することを決心した。

「もちろん、どちらもやる(二刀流)という考えもあったんですけど、どちらかに絞って、一方を極めたほうがプロに近づけると思った。自分はバッターよりもピッチャーやってるほうが好きなんで」

 平日の午前中は別府市民球場で練習し、午後は焼き肉屋でアルバイトをして生活費を稼ぐ。4月からは通信制とはいえ再び高校生となるため、週に一度はスクーリングで学校にも行かなければならない。笹倉がまだ在学していた頃の仙台育英のグラウンドに行くと、女手一つで3人の子供を育てた笹倉の母・春枝さんの姿をたびたび見かけた。現在、春枝さんは大分に移住し、末っ子である笹倉の野球と生活をサポートしている。

 ベゼルスポーツアカデミーのGMを務める水戸一真(みと・かずまさ)氏は笹倉の加入に尽力したひとりだ。

「再起するにあたって九州という土地を選んだのも、できるだけ東北から離れたかったのかもしれない。取材もずっとお断りしていたんです。ただ、別府に来てから1年以上が過ぎ、最近の笹倉は本当に明るくなった。いや、これが本来の世凪なんだろうなと思います。彼が前向きになって取材を受ける意思表示をする様になってきたので(取材を)お受けすることにしました。彼を成功に導くことが、私たちの活動や思いの証明につながると思っています」

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