スポーツ

元仙台育英・笹倉世凪 アメリカ経て別府から再起期す「この遠回りが『必要だった』と思えるようにしたい」

大分・別府を拠点とする「ベゼルスポーツアカデミー」で再起を期す笹倉(撮影・比田勝大直)

大分・別府を拠点とする「ベゼルスポーツアカデミー」で再起を期す笹倉(撮影・比田勝大直)

 昨夏の甲子園で東北勢として初めて深紅の大優勝旗を手にした仙台育英。同校の1年生として2019年夏に甲子園のマウンドの土を踏みながら、2年秋に退学した笹倉世凪のが(ささくら・せな)だ。2020年の秋に表舞台から姿を消しておよそ2年半が過ぎた今、大分・別府を拠点とするクラブチームから、再起へと動き出している。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む

 * * *
 2019年の春先、私は初めて宮城・仙台育英のグラウンドを訪れた。その日、仙台育英と岩手の大船渡との練習試合が予定されていた。大船渡には直前に行われた高校日本代表の合宿で163キロを記録した、令和の怪物こと佐々木朗希(現・千葉ロッテ)がいた。

 仙台育英の須江航監督は先発に笹倉世凪を指名する。2歳上の佐々木朗希にあえてぶつけて、入学したばかりの笹倉の糧となるような試合に──そんな願いが込められた起用だった。

 その試合で笹倉は、打者・佐々木にバックスクリーンに飛び込む特大の一発を浴びるも、岩手が生んだ怪物ふたりが交錯したのは心躍る瞬間だった。

 須江監督は、笹倉や笹倉と同級生である伊藤樹(現・早稲田大)らを秀光中学時代から指導し、2018年に仙台育英の監督となってからは笹倉たちが最終学年となる2021年夏に全国制覇を達成する「1000日計画」を公言してはばからなかった。

 しかし、須江監督にとっても、笹倉にとっても、志半ばでその計画は潰えた。2020年秋に自主退学した笹倉のいない仙台育英の2021年夏は、宮城大会の4回戦でノーシードの仙台商業に敗れてしまう。その試合を、笹倉はライブ中継で観ていた。

「もう辞めてしまったチームのことなので、悔しいとか、申し訳ないとか、そういう気持ちはなかったんですけど……どう言えばいいのかな、仙台育英のファンになった感じで応援していた。それが正しい表現かも知れません」

 伊藤をはじめ当時の仲間と笹倉は連絡を取っていないという。同じ夢を追いながら、その途中で道を外れてしまった後ろめたさが笹倉にはあるのかもしれない。昨年夏には後輩たちが東北勢として初めて全国制覇を達成した。当初の1000日計画の期限から1年後の快挙だった。

「すべての試合を観ました。ちょっとでも過ごしたチームなので、それは素直に嬉しかった」

 笹倉は密かにSNSを通じて後輩たちにお祝いのメッセージを送っていた。

 高校を自主退学した後、岩手に戻っていた笹倉は代理人と契約し、米国でプロを目指す道を模索するなかで1週間ほど、実際に米国の施設に足を運んで練習したこともあった。

「練習環境や設備は日本より良いと思うんですけど、言葉が通じない不安があった。練習よりも先に言葉の勉強をしなければならないのなら、日本で地に足着けて、プロを目指すほうが良いと思いました」

 そして、改めて代理人に紹介されたのがベゼルスポーツアカデミーだった。

「別府に来たのは去年(2022年)の1月です。プロに行くことを考えたら、ベゼルのこの環境が最適だと思いました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン