100歳を超える「百寿者」が全国で増えている。昨年は『80歳の壁』がベストセラーになるなど、自立した生活を送る「健康寿命」をいかに延ばすかが注目されるなか、全国の百寿者の対面調査を行なった慶應大医学部の研究チームが、“100歳の壁”を越える秘訣を探っている。
「1992年に始まってからもう30年。私が参加したのは1995年からです。当時は百寿者自体が稀で、実証的な研究はあまりありませんでした。ところが調べ始めると、百寿者の健康寿命が総じて『90歳以上』と長いことがわかった。そこで、彼らの心身の健康状態、食事・運動など生活習慣上の特徴や、遺伝的な特徴の有無などを明らかにすることが医学的にも社会的にも重要だと考え、研究が本格化しました」
そう語るのは、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターでセンター長を務める新井康通教授だ。(以下、「 」内のコメントは新井教授)
同センターが長年続ける「百寿者研究」は、100歳以上の長寿者のもとに実際に赴き、インタビューや血圧測定、血液検査などに協力してもらうことを基本としている。
「当初は高齢者専門の診療科である老年科の医師たちが、病院のある新宿区周辺の百寿者を探して訪問するという、医師による医学的な調査でした」
それが「学際的研究」として広がりを見せたのは2000年以降だという。
「医学に留まらず、社会心理学、栄養学、介護、遺伝学など様々な分野の専門家が参加し、2000年からは東京都健康長寿医療センターとの共同による『東京百寿者研究』がスタートしました」
当時、都内の百寿者は千数百人いたが、そのうち300人への訪問調査が実現した。そこで明らかになったのは、「100歳を超えても元気なお年寄り」のイメージとはやや異なる実態だった。
「百寿者のなかでADL(日常生活動作)が高く自立できていた方は2割に留まり、介助が必要な残りの8割のうち、約3割は寝たきりでした。かつ、全体の97%が何らかの慢性疾患を抱えており、百寿者といえども病気と無縁ではなかった。健康寿命が長い人の特徴を明らかにしたい私たちは、続いて『100歳の時点で自立している人たち』に注目しました」