岸田政権は安倍政権に似た構造を持っている、とも言われている。安倍政権時では安倍晋三首相と菅義偉官房長官という強いリーダーシップを持つ政治家がいたと同時に、経済産業省出身の今井尚哉氏が首相秘書官として権勢を振るい強い政治力を持っていた。今井氏は安倍内閣が掲げた「一億総活躍社会」というスローガンを発案したことでも知られている。今井氏の言動は、「官邸官僚」という言葉で鳴り響いていた。
岸田新政権が発足したときも首相秘書官には元経済産業事務次官の嶋田隆氏が起用された。嶋田氏は今井氏とは経産省の同期として知られ親交も深いという。しかも嶋田氏は元事務次官というエリート中のエリートで異例の抜擢となっている。つまり安倍政権と同じように、岸田政権でも大物経産官僚を要に起用したという意味で、その構造が似ていると分析されているのだ。
そして岸田政権のもう一人のキーマンとなっているのが新原浩朗・内閣審議官なのだ。新原氏は東大経済学部を卒業し1984年に経済産業省(当時は通商産業省)入省したキャリア組で、経済産業政策局長を務めるなどエリートコースを歩んだ。安倍政権時代には今井氏の“子飼い”として活躍した。世間では“菊池桃子の夫”として知った人も多いだろう。
前述の“新原ペーパー”には、新原氏の私利とも言えるような個人的意見が進言されており、それを岸田政権が疑問も持たずに受け入れていることが後に明らかになるのだ。例えば菅政権で設置された成長戦略会議を廃止して、岸田政権では「新しい資本主義実現会議」を新設すべきとの提言に紙幅を大きく割いている。そして政府会議のメンバーにまで言及している。例えばこんな調子だ。
〈岸田政権が樹立された場合、成長と分配の好循環を検討する新しい資本主義実現会議(仮称)の設立が必要となる。この場合、新総理自らが、この会議の議長に就任する必要〉
〈成長戦略会議のメンバーについては、委員の構成がリアリティを欠くとの意見が多い。(編集部注/デービッド・)アトキンソン議員、三浦(瑠麗)議員は少なくとも替えるとともに、経済界から要請がある十倉経団連団長を未来投資会議までと同様に、加える方向で検討する必要がある〉
岸田政権では新原案の通り成長戦略会議は廃止され「新しい資本主義実現会議」が新設される形となった。ペーパー通り、岸田首相が議長に就任した。そしてアトキンソン氏、三浦氏が委員から外れる一方で、十倉氏をはじめ新規メンバーとして「不可欠」とされた人物はみな有識者構成員に加えられたのである。