女性セブン2023年3月2日発売号では、発がん性が疑われる化学物質「PFAS」が全国各地で指針値を超えている状況についてレポートした。しかし、依然、国の対応は遅い。いったい、それはなぜなのか。女性セブンがPFAS問題に迫る専門家らに改めて話を聞いた。【前後編の前編】
1Lあたり、4ng(ナノグラム)──。3月14日、アメリカ政府は飲み水に含まれる「PFAS」濃度の規制値の厳格化を公表した。「PFAS」とは人工的に作られた有機フッ素化合物の総称。水や油をはじく性質があり、フライパンのコーティングなどに使われてきたが、発がん性が指摘されている。「PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)」「PFOA(ペルフルオロオクタン酸)」など4700種類以上に分類され、分解されにくく残留しやすい性質から「永遠の化学物質」とも呼ばれる。
アメリカにおける新しい規制値案は1LあたりPFOS、PFOAそれぞれ4ngである。法的拘束力を伴うと報じられている。
一方、日本では環境省と厚生労働省が規制値ではなくあくまで「暫定指針値」として、PFOSとPFOAの合計値を1Lあたり50ngにしている。アメリカ規制値案のたった10分の1以下の緩さだ。
科学ジャーナリストの植田武智さんが言う。
「日本政府はWHOがPFOS、PFOAそれぞれ1Lあたり100ng以下を基準案としていることを理由に、当面は現状維持するという判断のようです。
しかし、WHO基準は途上国など経済的、技術的な理由で対応できない国を考慮した値です。先進国である日本が参考にしていいものではありません」
水道という超重要インフラへ対応が遅れているといわざるを得ない。
本誌・女性セブン3月2日発売号で、東京・多摩地区の水道などからPFASが検出されている問題をレポートした。
市民団体「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」が周辺住民から参加を募って行った血液検査では、血中濃度の平均は全国の3.7倍という高さだった。PFASは多くの病気の原因となることが確認されている。
「アメリカの研究では妊娠高血圧及び妊娠高血圧腎症、精巣がん、腎細胞がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症などを引き起こすと報告されています。
そのほか北海道大学の追跡調査でも妊娠中にPFASを摂ると生まれてきた子供に出生体重の減少や甲状腺ホルモン・性ホルモンの異常、免疫力低下、神経発達の遅延、脂質代謝異常などのリスク上昇が指摘されています」(植田さん)
実際、多摩地区で血液検査を受けた人の中には、スポーツ好きでスリム、食事内容も健康的であるにもかかわらず脂質異常症と診断された70代女性がいた。
なぜ、多摩地区の水道からPFASが検出されたのか。多摩の市民団体で共同代表を務める根木山幸夫さんが話す。
「米軍横田基地が汚染源として疑われています。航空機火災訓練で長年使用されてきた泡消火剤に、PFASが含まれているからです。消火剤そのものが風に乗って20km以上飛散するほか、長い年月を経て地中ににじみ出し、地下水を汚染したとみられています」
世界を見渡すと航空関連施設がPFASの発生源だったケースは珍しくない。多くの米軍基地を抱える沖縄でも、高濃度のPFAS汚染被害が多数報告されている。
沖縄の市民団体「有機フッ素化合物汚染から市民の生命を守る連絡会」共同代表で、沖縄大学名誉教授の桜井国俊さんが明かす。
「北海道大学の追跡調査にあったように、沖縄で明らかになっている健康影響として低出生体重児問題があります。2500g未満で生まれてくる赤ちゃんの割合は全国平均の約9%に対し、沖縄では約11%と高い。以前は基地騒音が原因ではないかといわれていましたが、いまではPFASが原因だという認識です」