「数値も高いし、とりあえずお薬出しますね」。医師からこう言われ、“数値を下げるため”に処方された薬を漫然と服用しがちな人は多いだろう。だが、ナビタスクリニック川崎・谷本哲也医師はこちらも薬でただ下げることに対して否定的だ。
「“薬を飲めば安心”と、それまでの生活習慣を改めない人が多くいます。しかし、薬だけでは不十分。血圧や血糖値、尿酸値は薬をやめると数値が元に戻りかねない」(谷本医師)
さらに、こうした数値を下げる薬は「多剤併用」を招きやすい。
「飲み始めの頃は『血糖値だけ』『尿酸値だけ』かもしれませんが、年単位の長期で使ううちにほかの数値が悪くなり、多剤併用に陥る。そうなってからでは生活習慣の改善で減薬するのはさらに難しい。最初から安易に薬に頼るのは避けたほうがいいでしょう」(同前)
数値を下げる目的で服用する薬の問題は、「副作用」にある。秋津医院院長・秋津壽男医師が言う。
「糖尿病薬を飲んで怖いのは低血糖症。脳に血がうまく通わなくなり、脱力して倒れ込むのです。私もこの症状の人を外で助けたことがあります」
ある時、秋津医師が歌舞伎座で観劇中、近くの桟敷にいた60代くらいの男性が、ガタンと倒れた。
「傍らの奥様に糖尿病の薬を飲んでいるかと尋ねたら、『飲んでいる』と。職員にコーヒー売り場のスティックシュガーを持ってきてもらい、5本を口に入れて飲ませたら、みるみる元気になりました。服用後に食事を摂らないと低血糖のリスクが高まります」(同前)
薬が“切れて”病院へ
糖尿病薬は飲み続けると、“耐性”がついて薬の効果が減退する問題もある。薬剤師の長澤育弘氏(銀座薬局代表)が言う。
「インスリン分泌を促す糖尿病薬を漫然と飲み続けると、身体のインスリンに対する抵抗力が上がってしまい、『インスリン抵抗性』の状態になります。そうなると薬では血糖値を下げることができなくなり、インスリン注射が必要になります」
普段から飲んでいると薬が“切れる”ことで発作を招くケースもある。
「尿酸値が高くても症状が出ていない状態を高尿酸血症、尿酸が関節にたまり炎症を起こすことを痛風と言う。その症状が激しい状態が痛風発作です。痛風発作の経験がある人に多いのが、『薬で数値が下がったから大丈夫』と、通院や服薬を面倒がって止めてしまうケースです。生活習慣が以前のままであれば、薬が切れた後、発作を起こすのは必定。それで病院に駆け込んでくる患者さんが結構多くいます」(谷本医師)