新型コロナウイルスが世界で流行した3年前、ペットブームも世界中で起きた。ならば、ペットと暮らす生活について理解が広まったかといえば、そうとは言えない現実がある。厳罰化された改正動物愛護法が2020年から施行されているが、度重なる行政指導にもかかわらず逮捕に至るケースが後を絶たない。そのなかでも悪質と注目を集めているのが、動物の愛護や保護を訴えながら、実際には虐待しているケースだ。俳人で著作家の日野百草氏が、動物のための善意を悪用する団体の元職員たちに実態を聞いた。
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「気をつけてくださいね。なにがあるかわかりませんから」
東京都八王子市、16号線沿いに大きな大学があるだけの閑散とした土地に、その犬たちはいた。甲斐犬という日本犬、まだ2022年のこの段階では事件化していなかったが、近所の協力者の方は本当に心配そうな様子で筆者を見送ってくれた。
筆者はこの段階で噂を耳にしていた。甲斐犬や柴犬など日本犬のブリーダーが劣悪な環境で飼育、繁殖させられていることを。すでに心あるボランティア団体らが動いていたが、東京都のほうでもこのブリーダーに指導を繰り返していた。その数、48回。
そして2023年3月、ついにそのブリーダーは警視庁保安課に逮捕された。逮捕の段階ではすでに「元」ブリーダーと称していた。
「売れないままに増えてしまった」「甲斐犬を普及させたいと思った」
逮捕された元ブリーダーは容疑を認め、こう供述した。
犬舎はすでに2022年10月に廃業。100匹以上の犬はボランティア団体らが保護した。1月には東京都が刑事告発、家宅捜索では犬たちの多くが狭いケージに入れられ、足は曲がったままだったり、皮膚病まみれだったりの状態にあった。48回もの指導の間に苦しみの中、亡くなった犬もいた。
「甲斐犬を探しています。見かけませんでしたか」
2023年4月、すでに元ブリーダーは逮捕され、閉舎となった施設の近くで女性に声をかけられた。先の保護したボランティア団体ということで、甲斐犬が1匹行方不明だという。受け取ったチラシには可愛らしい甲斐犬の姿。詳細は置くが、どこでどうしているのだろう。これまでこの地で、多い時で170匹以上が劣悪な環境にあったとされる。
「気をつけてくださいね」