岸田文雄首相が応援演説に訪れた和歌山市の雑賀崎漁港で爆発物を投げ込まれた事件で、和歌山県警は4月15日、無職・木村隆二容疑者(24)を威力業務妨害容疑で逮捕した。昨年、山上徹也被告が引き起こした安倍晋三元首相の銃殺事件から一年たたぬ間に起きた事態に、現場で撮影された衝撃的な映像が連日取り上げられている。当日は和歌山1区補選に出馬している自民党候補・門博文氏への応援演説が行われる予定だった。30代の漁師の男性が当日の違和感を語る。
「あの日は11時ごろに漁港近辺で、ウグイス嬢が“岸田さんは11時20分から、門候補は11時40分から演説があります”とアナウンスをしていました」
岸田首相は11時20分ごろに漁港に到着、試食などを行い、11時27分ごろ、演説台に立とうとしたタイミングで事件が起きた。公開された防犯カメラ映像ではバスから降りた容疑者が、岸田首相の車列が到着して約1分後に、漁港に直行する様子もとらえられていた。
「少なくともあの人(容疑者)を見たことある人は、地元にいなかったし、そんなスムーズに会場に行けるのかなと。“そろそろ岸田さんが始めるよ”って伝えてた人がいたんじゃないかと思ってしまうくらいの動きでした」(同前)
木村容疑者はなぜこうも簡単に岸田首相に近づくことができたのか。警察はその経緯を慎重に捜査しているが、警視庁でSP(警護官)経験のある現役警察官は、当日の警護体制についてこう指摘する。
「驚いたのは、岸田総理と聴衆との距離です。あの近さでは、何があっても防げないくらいの距離。今回は、爆発物の威力が弱かったのが不幸中の幸いです。仮に威力が強かったら、人的な被害が出ていた可能性が高いでしょう。本来であれば、もっと十分な距離をとるべきです。
また今回、護衛の警察官が爆発物を見つけたあと、とっさに聴衆のほうに向かって蹴ったことについて問題ではないかとの指摘がありましたが、要人警護ではいたしかたないと思います。まずは、要人を警護することが第一。SPは銃撃された時などは覆い被さるように訓練をされています。防弾ベストなどを着用していても、自分の命を盾にして要人を守る覚悟です。要人が暗殺されることは、国家としての一大事であるため、あのような対応にならざるを得ない。山上被告の時の対応が問題視されていただけに、動きはよかったと思う」
護衛の警察官が聴衆のほうに爆発物を蹴り出す場面の映像が繰り返し報じられ、ネット上では「一般人の犠牲はやむを得ないということか」と物議を醸していた。実際に民間人に被害が出ていたら、もっと大きな問題になっていたかもしれない。
「実は、選挙期間中というのは、VIPがいちばん危険にさらされるタイミングです。すでに翌日の岸田総理の遊説現場では所持品検査が行われていましたが、多くの人と触れ合う選挙ということを考えると、すべての現場で徹底することは難しいのではないでしょうか。今後も同様の事態が起きるかもしれない」(同前)
一つ間違えれば大惨事になっていた事件。今後の警護体制にあらたな課題が降りかかった。
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