日頃は国立科学博物館・筑波研究施設で海棲哺乳類の調査研究に従事し、彼らが何らかの理由で浜や川に打ちあがる〈ストランディング〉が起きる度に現場で対応に追われる、同博物館研究主幹・田島木綿子氏。その多忙にして興味深い日常を綴った前作『海獣学者、クジラを解剖する。』が話題となり、最近はテレビ等でも人気の彼女の新作が『クジラの歌を聴け』だ。
今回のテーマはずばり、動物達の繁殖戦略について。訊けば彼女は友人と会食中、〈臨床繁殖学実習でヤギの交尾がすさまじく速かったこと〉や〈発情したウマ〉を話題に大いに盛り上がり、店側にやんわり注意された〈残念な体験〉さえ持ち、それでも〈まったく懲りていない〉のだという。
「私は獣医大にいた頃から別にその手の話は嫌いじゃなかったし、嫌悪感よりも『えっ、そんなところまで戦略が!』という、感動の方が大きかったんです」
そもそも性を語ることは恥でも何でもない。〈動物たちの性や繁殖が常に「生きること」とセット〉だから、彼女は本書を書くのである。
実はこの日、4月某日も、千葉・釣ヶ崎海岸に多数のイルカが漂着し、田島氏は朝から現場に急行。夜8時近くにつくばに戻り、翌朝また早くに出ていくという彼女に、「今日は現場で何をしてきたんですか」と率直なところを訊いてみた。
「今日は調整ですね。今回みたいにカズハゴンドウが30頭以上も一斉に打ち上がると、役場の人やサーファーの人、研究機関や水族館や見物の人まで入り乱れて、現場は大混乱するんです。そこでまず何をしなきゃいけなくて、明日以降はどうなりそうか、誰か経験者が陣頭指揮する必要があったんで、それをやりました。
幸い死体はうちが回収し、学術調査する方向で一宮町とは話がつき、回収車両も既に向かってるはずですが、結局、我々が現地に飛んで仕切らないと、彼らは粗大ゴミにされちゃうんです。私は死をぞんざいに扱うのがとにかく嫌だし、元々病理学好きだからか、生きてる時が全てじゃないじゃんって思うんですよね。
8年前に鉾田沿岸で153頭が打ち上がった時はさすがに大変すぎて泣きましたけど、じっと電話を待ってるなら現場に行っちゃった方がいい。何事もやってみて後悔する方がまだマシだと思うタイプなんです」