1978年1月12日、東京・中野区の警視庁警察学校で土田国保警視総監ら警視庁幹部と110番の人文字を作る、新成人になった警視庁の警察官(時事通信フォト)

1978年1月12日、東京・中野区の警視庁警察学校で土田国保警視総監ら警視庁幹部と110番の人文字を作る、新成人になった警視庁の警察官(時事通信フォト)

どんなことも完璧さが要求された

 きつい訓練の筆頭には、警備実施訓練という機動隊の動作を習得する訓練がある。この訓練では今も出動服にヘルメット、防護のためのベストや脛当てを着用し、ジェラルミンの盾を持つ。これがとにかく重いという。「平成の教場を卒業した警察官も、この訓練の時に誰かがミスをすると地獄だったと言っていた。連帯責任でジェラルミンの盾を持って、校庭を駆け足ししなければならないからね。重くて腕が痛くなるが、終わるまで盾を置いてはいけない。さすがにあれはしんどかった」。

 昭和の教場では、訓練中にミスをすると、容赦なく教官の手が飛んできた。学生時代は体育会に所属し、幼い頃から武道をたしなんでいた2人は、団体生活や訓練の厳しさにはある程度慣れていたという。「今なら体罰で問題視されるのかもしれないが、自分はバシバシ叩かれ、しごかれた。当時の教場ではそれが当り前。一歩間違えば、命の危険につながることもある。パワハラなどと言っていられない。それにこっちも命令されることをこなすのに精いっぱいだし、覚えることは山のようにあるから、他のことを考える暇はなかった」とT氏。

「教官に対してこの野郎と思うことがあっても、それで教官を恨むということはなかった」(T氏)。訓練では教官に追い込まれるような時もあるが、それは実際の現場で冷静な判断と対応ができるようにするためだという。だが鬼の教官も彼らが卒業する時は、一番に大泣きしたとY氏は話す。「厳しかった教官がお前たちのために、心を鬼にしてやったんだと、その時の気持ちを吐露して泣かれると、こっちも感極まって泣けてきた」教官も生徒も号泣するドラマのような卒業式が、リアルな教場にはあるという。

 教場では訓練実習、座学だけでなく、日常的な動作や警察官としての作法や技術も身につけなければならない。

「挨拶の仕方は当然だが、お茶の淹れ方や出し方、掃除の仕方、アイロンのかけ方、靴の磨き方からトイレ掃除の仕方まで徹底的に指導された。心の緩みがミスにつながるため、どんなことも完璧さが要求された。トイレは小さな布を渡されて、それで床も便器もきれいに拭き上げた」(T氏)。

 日常の些細なことが現場での動きとどう関係あるのかと思われるかもしれないが、緊急のときこそ、そういった日頃の動きが反映される。教場での訓練はその後、独身寮での生活や配属された所轄署での毎日に生かされた。時代が変わったと言われる今でも、基本的なことは変わらないという。

 高卒で警察学校に入った2人は、入学期間の10か月間、同じ釜の飯を食った。大卒だと入学期間は6か月だ。ドラマ教場では途中で脱落していく生徒が何人もいたが、彼らの同期はほとんど脱落しなかったという。「苦楽を共にした同期だからこそ絆は固く、仲間意識も強くなる」という2人は、警察の中でも最も信頼できる仲間を教場で得ていた。

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