SDGs(持続可能な開発目標)のかけ声のもと、様々な新しい試みがなされている。そのうちのひとつが「ジェンダーレストイレ」だ。ところが、話題のスポットにジェンダーレストイレ、と知られるたびに懸念の声がネットで広がっている。ネットの中だけでの話で、現実は歓迎されているのか、実際にも困惑とともに利用されているのか。俳人で著作家の日野百草氏が、外国人観光客も戻り再びにぎやかになってきた新宿歌舞伎町の「ジェンダーレストイレ」を訪れた。
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「トイレどこにあるの?」
新宿「東急歌舞伎町タワー」。5階の高級会員制クラブ(レストラン併設)エントランスで老夫婦が少し強めの語気で「トイレはどこ」と訪ねている。「トイレはあちらになります。ご案内しましょうか」とコンシュルジュが対応するも「いいよ、面倒くさい、自分で行く」と踵を返した。
トイレはすぐ目の前にあるが、じつにシックな同系色で統一され、確かにトイレに見えない人もあるかもしれない。「RESTROOM」というのも高齢者の中には「わかりづらい」という人もいるか。男女のピクトグラムはあるが、色分けはない。
4月に開業したこの新宿「東急歌舞伎町タワー」、筆者は2階にある開放的かつ大掛かりな居酒屋スペースで打ち合わせ兼飲み会のために訪れたが、確かに5階、どこにトイレがあるのか一瞬わからなかった。他にもトイレをしばし探して「あった」と目の前であることに気づく人もいた。
ただしこの5階のトイレは男女で分かれている。逆に2階のトイレは分かれていない「ジェンダーレストイレ」である。その他、各階トイレも2階以外は男女別(外部の利用は各階および施設による)だった。各階にトイレはあるが、2階入口(実質的には2階がメインエントランス)の総合案内板では2階と5階のトイレのみ表記されている。
ジェンダーレストイレとは男女(自認含む)、もしくはそのどちらでもないと自認(Xジェンダー)する人など誰もが使える個室トイレだ。男女とも大小の用足しおよび性による事情など、すべて同じ個室を使う。
分かれたトイレがあるならそっちに行く
「女性と男性がいっしょにトイレを待ち、男性が使ったあとを女性が使い、あるいは女性が使ったあとを男性が使うトイレ」
こう書くと昭和や平成初期の施設にあった「男女共用トイレ」(いまも小さな店などにはあるが)に先祖返りしたような気になるが、このトイレ、「ジェンダーレストイレ」という名称を除けば仕組みとしてはそれである。