稲垣吾郎主演の舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』(以下・『サンソン』)が話題だ。東京公演は連日大盛況、リピーターや大阪、松本公演へと遠征する人も多い。実力と人気を兼ね備えた俳優がズラリと並び、ファンにとってはもちろん、待望の舞台である理由は“幻の作品”でもあるから。2021年4月に上演が始まったものの、コロナ禍の影響で、上演は数回で中断してしまったのだ。
今回、観劇したライター・沢木文が、「終演後も胸がいっぱいで震えた」というほどの魅力をレポートする。
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作品の舞台は、名作マンガ『ベルサイユのばら』(池田理代子・著)でも知られるフランス革命の動乱期。稲垣が演じるのは、実在した死刑執行人であるシャルル=アンリ・サンソン。サンソンは、斬首台・ギロチンを開発したことや、国王・ルイ16世の死刑(斬首刑)を執行したことでも知られる。
サンソン家は代々、死刑執行人という職業を世襲している。死は生物にとって等しい恐怖である。法や社会秩序を守る番人として死刑執行人がいる。その誇りがありながらも、人を死に至らしめるという“穢れ”を引き受けている。
稲垣は「最初にサンソンを知ったのは、サンソンの伝記的なマンガ『イノサン』(坂本眞一・著)でした。歴史の教科書ではなく、裏舞台に興味を持ち、舞台化を発案したのです」と記者会見で明かしている。
稲垣がそれほどにかき立てられ、自ら初めて舞台化を希望したという作品。近年は舞台俳優としても評価が高まっている稲垣の舞台で記憶に新しいのは、2015年初演で再演もされている『NO.9-不滅の旋律-』だろう。『サンソン』と同じ、演出・白井晃、脚本・中島かずき(劇団☆新感線)の白井組作品だ。
「僕はお二人との作品は、何度でも再演を重ねたいと思っています。命続く限り、何度でも」とパンフレットにも書かれている。
『NO.9-不滅の旋律-』で稲垣は狂気と運命の作曲家・ベートーヴェンの葛藤を鬼気迫る迫力で演じていた。そして『サンソン』も死刑執行人であり約3000人の首を刎ねながら、自身は死刑廃止論者という葛藤を抱えるサンソンを演じている。そう、稲垣は“葛藤”が似合う俳優なのだ。
『サンソン』が扱うテーマは死だ。舞台の幕が上がるとき、どの舞台にも特有の緊張感と圧力があるが、この作品は特に強い。俳優の情念、観客の期待が緞帳に張り付いているような雰囲気もあり、それが不思議と心地よかった。
暗闇の中に稲垣が立つ。ギロチンを彼が開発する前、サンソンは剣で罪人の首を刎ねていた。罪人に苦しみを与えぬために、ストイックな鍛錬を重ね自らの命も削る。恩人であろうが冤罪であろうが法が「死刑」と決めれば、それを執行しなければならないのだ。