このジフテリアが激減した背景にはワクチンによる予防効果があります。日本は1958年からジフテリアトキソイド・百日咳2種混合ワクチンが導入され、1968年からはジフテリアトキソイド、百日咳・破傷風トキソイドワクチンの3種混合ワクチンが定期接種となって(注・1967年以前に生まれた方はこのワクチン未接種の人が多い)、現在は不活化ポリオワクチンを追加した4種混合ワクチン接種が行なわれて、ジフテリアは稀な病気となっています。

 一方でワクチン接種が低迷したり、保健医療体制が崩壊したりすると、再びジフテリアの脅威は頭をもたげます。2017年にはバングラデシュのロヒンギャ難民のキャンプでジフテリアの流行が起こりました。戦争、飢餓、そして医療崩壊は悲しい病を蘇らせます。

 ワクチンも薬もなかった時代の幸田文さんの悲しみを読んで、誰もが適切な医療を受けられる医療制度を守りたいと痛感しました。

【プロフィール】
岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士を取得。国立感染症研究所などを経て、現在は白鴎大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。

※週刊ポスト2023年5月5・12日号

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