【週刊ポスト連載・医心伝身】ストレス社会や高齢化に伴い、慢性便秘症が増加傾向だ。QOL(生活の質)の低下はもとより、排便回数減少と心血管障害死の関連を指摘する研究もある。慢性便秘症は排便回数減少の他、便の硬さや腹部膨満感、腹痛、残便感などの周辺症状もあり、原因は多岐にわたる。近年、腹部手術後の腸閉塞予防と治療に使われる漢方薬の大建中湯が、慢性便秘症にも有効との結果が報告されている。
慢性便秘症の診断は国際基準RomeIVにより、排便回数の減少と便の硬さ、排便周辺症状(腹部膨満感や腹痛など)のうち、2項目以上当てはまる場合だ。60歳以上になると大腸の動きの悪化や腸管の知覚が低下する内的要因と、精神的ストレスや運動不足、低栄養、薬などの外的要因が重なり、慢性便秘になりやすい。
2017年に慢性便秘症診療のガイドラインが策定され、現在は新しい作用機序の治療薬が登場した他、漢方薬の見直しなど治療の選択肢は広がっている。
川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波)の眞部紀明教授に詳しく話を聞いた。
「西洋薬は作用が1点に集中するものが多いのですが、逆に漢方薬は作用点が広いため、病因が多岐にわたる慢性便秘症の治療に適しています。しかし、漢方薬はこれまで経験則で使われてきた歴史があり、エビデンスを重視する欧米では代替治療という位置づけでしかありません。そこで私は米国メイヨークリニックの在籍時に、健常者を対象に漢方薬で消化管の動きが早くなるかどうかの試験を実施しました。使用した漢方薬は腹部手術後の腸閉塞の予防や治療で使用される大建中湯です」
試験は健康な男女60人を大建中湯1日7.5グラム群と、1日15グラム群、プラセボ(偽薬)群の3つに分けて5日間投与を行なった。その結果、大建中湯投与群はプラセボ群に比べ、上行結腸が空になる時間が有意に早かったのだ。
帰国後も2016年4月から2018年5月まで、全国3施設において二重盲検プラセボ対照試験を実施。腹部膨満感のある慢性便秘症患者を対象に大建中湯29例と、プラセボ群34例に分け、28日間投与した。